ペーパーレス化を考える③ │ マンション管理組合運営

田中一直

管理組合運営でのペーパーレス化について、今回で3回目の記事になりました。今回は総会議案書のデータ化と区分所有者への配信等に関して区分所有法に規定されている電磁的記録・電磁的方法の運用について考えたいと思います。

目次

  • 記録の作成と閲覧等の運用方法に関すること
  • 電子メール等による議決権の行使に関すること
  • まとめ

これまで書きました「総会議案書の記載内容の簡略化」などは、法令等に明確な規定がないため、運用の決定や内容については、原則として管理組合が自由に決めることができるものでしたが、今回のデータ化(電子化)の運用については、区分所有法(分譲マンションの権利形態や管理組合の運営等について定めらた法律)による明確な規定があり、また、標準管理規約(マンションの標準的な管理規約のモデルとして国土交通省が発表しているもの)においても記述がなされていますので、法令に則した内容で運用しないといけません。

 

この内容は、平成14年の区分所有法の改正により追加されたのですが、その内容は「記録の作成と閲覧等の運用方法に関すること」「電子メール等による議決権の行使に関すること」の2点に大別されます。

1.記録の作成と閲覧等の運用方法に関すること

区分所有法や標準管理規約ではデータで保管された記録等を「電磁的記録」と呼んでいます。
※電磁的記録とは・・・磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの(区分所有法施行規則 法務省令第47号)
簡単に言いますと、文書作成ソフト等で作成した文書がハードディスクやCDーROMに保存(記録)された状態のことです。

区分所有法では、上記の電磁的記録そのものを記録や文書とすることが認められています。
だだし、必ず電磁的記録とすることを義務付けたものではなく、書面または電磁的記録のどちらを採用するかは管理組合の意思により決定することとなります。(実際に電磁的記録の方法を運用する場合には、管理規約等で詳細を定めておく必要があると思います)
区分所有法や標準管理規約において対象としている文書や記録は以下のものです。

①管理規約
②議事録
③帳票類等の作成・保管 ※標準管理規約のみ
④管理規約原本  ※標準管理規約のみ

この電磁的記録については、作成されたデータ(ワード・エクセル・PDF等)そのものを記録や文書とする場合なので、紙で書面化された記録(原本)が存在し、それに加えて、その複写をPDF等でデータ化して保存しているような場合は、区分所有法等が規定している電磁的記録にはあてはまらないと考えられます。
つまり、電磁的記録はデータそのものなので、文書等を閲覧するときは、紙面ではなく画面に映されたものを閲覧するような形態となります。

この電磁的記録の導入、運用は管理組合にとって大きなメリットがあるのでしょうか?

区分所有法の規定する電磁的記録の導入には、様々な課題をクリアする必要があるため、容易に導入することは容易ではないと感じています。
理由は様々なのもがあるのですが、大きな理由の一つとして、作成した文書データそのものを原本化(原本として証明すること)する手続きに課題があると感じています。
通常、紙で作成した文書(議事録などの重要文書)は、その内容を証明するために署名人の署名押印が必要となりますが、電磁的記録とする場合には、この署名押印に変わる方法により証明することが必要となります。
この方法について、区分所有法施行規則(法務省令第47号)においては「電子署名及び認証業務に関する法律」に定める方法による電子署名とされています。
この電子署名の方法に関しての規定に則した運用とするには、管理組合として電子署名のためのシステム等の導入や電磁的記録の管理方法や閲覧方法などについてのルール制定が必要となるなど導入に向けては、多くの労力とコストが発生することが考えられます。

法的な整備はされていますが、電磁的記録の運用については、現段階では費用対効果を考えると、書面(紙)で作成して保管するほうがメリットが多いと感じます。実際に弊社が管理を受託している管理組合においても、電磁的記録を採用している管理組合はほとんどありません。

では、総会議案書をデータ化して区分所有者に配信することはどうなのでしょうか?
総会議案書は、前回までのブログにも書きましたが、区分所有法や標準管理規約に特段の規定はありませんので、総会議案書をデータ化して配信することは特に問題ないと考えられます。
ただし、ここで注意しないといけないことは、区分所有法で規定されている総会の招集通知に含まれる3つの事項「日時」「場所」「会議の目的たる事項(何を決めるのか)」については、区分所有法により通知方法に関しての規定があり、この部分については、電磁的方法によることを認める規定はないため、総会の招集通知を電子メール等で区分所有者に配信することで、紙書面での招集通知に代えることはできないと考えられますので、必ず紙書面での招集通知を行う必要があります。

2.電子メール等による議決権の行使に関すること

区分所有法・標準管理規約において、電子メールでデータを送受信することや記録媒体にデータを保存して交付することなどを「電磁的方法」と呼んでいます。
※電磁的方法とは・・・①:送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの  ②:①に規定するファイルに情報を記録したものを交付する方法であり  ③:①②とも受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるもの(区分所有法施行規則 法務省令第47号)

区分所有法において、区分所有者が電子メール送信USBメモリー等の記録媒体に内容を入力して提出してもらう方法などにより、総会等の際に議決権を行使することが認められています。
前出同様に、必ず電磁的方法を導入することを義務付けたものではなく、議決権行使の方法は、書面または電磁的方法のどちらを採用してもよいこととなっています。(実際に電磁的方法を運用する場合には、管理規約等で明確に定めて運用する必要があると思います)

実際に電磁的方法による議決権行使を運用する場合は、多くのマンションにおいて、区分所有者全員がパソコン等の扱いに精通している状況ではないと考えれらますので、紙書面と電磁的方法の何れかを区分所有者が選択して議決権を行使できる方法を採用せざるを得ないため、議決権行使の状況を管理する煩雑さに加え、電子メール送受信などの設備導入と維持管理コストも発生することになることが考えられます。
なお、総会を開催しないで書面のみで決議を行う際に電磁的方法を採用する場合は、事前に電磁的方法の種類等を説明し、決議を行うことについて区分所有者全員の承諾を得なければならないので注意が必要です。
総合的に費用対効果を考えますと、電磁的方法による議決権行使の導入については、現段階では導入のメリットには疑問があります。

まとめ

電磁的記録・電磁的方法の採用については、ペーパーレス化だけの観点から考えますとメリットはあると思いますが、総合的に考えた場合、現在のところ、一般的な管理組会においては区分所有法の規定する電磁的記録・電磁的方法を導入することによるメリットは少ないように感じます。
しかし一方で、区分所有法の規定する電磁的記録とは少し意味合いが違いますが、記録の老朽化対策や整理する手法として、紙書面で作成したものをデータ化(電子化)して、予備的に保管しておくことには必要であると感じています。
管理組合の書類はマンションの経過年数ごとに増え、また、紙書面は、インクや紙の劣化、また様々な要因により破損や棄損する可能性もありますので、将来にわたり重要な文書や記録を保存する方法としては、原本を複写してデータ化しておくことをおすすめいたします。

 

前回までの記事は下記リンクを参照ください。

ペーパーレス化を考える①  テーマ:総会議案書に対する疑問・紙(印刷代)に係る費用ほか
https://anabuki-m.jp/information/residents/19773/

ペーパーレス化を考える②  テーマ:疑問に対しての回答(総会議案書)・総会議案書の法的位置づけほか
https://anabuki-m.jp/information/residents/20005/

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田中一直

あなぶきハウジングサービス 田中 一直(たなか かずなお)
香川県出身。あなぶきグループに平成6年に入社。主に新築マンションの販売、中古マンション・戸建などの仲介業務を経て、その後、マンション管理業務に約20年従事しています。マンション管理組合の運営補助だけでなく、お客さまのマンション生活が安心で快適であるため、常にプラスアルファの提案活動を心がけています。
資格:マンション管理士・マンション維持修繕技術者
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