こんにちは、仲井です。今回も民法ですが、ご存知の通り、民法で満点近く正解することは、ヘリコプターから釣りをするように至難の業です。過去に出題された基本的知識(それだけでも膨大です)を確実にしておきましょう。さて、今回は「不法行為」がテーマです。
目次
- 不法行為とは
- ここがポイント(履行遅滞の時期・消滅時効)
- ここがポイント(不法行為と相殺)
不法行為とは
不法行為とは、「故意または過失によって、違法に他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負う」というものです。損害には、精神的損害も含まれます。身体や財産だけでなく、「心が傷ついた」というのも含まれるのですね。
不法行為では、被害者保護の考え方があり、たとえば、胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされます。つまり、権利能力のない胎児にも、不法行為に基づく損害賠償請求権があります。お腹の子供のために親が損害賠償請求権を主張することができるわけです。
また、被害者にも過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます。つまり、不法行為の場合、過失相殺により損害賠償額を減額するかどうかは、裁判所の任意です(そして、損害賠償額を0にすることはできません)。なお、債務不履行に基づく損害賠償の場合は、過失を必ず考慮しますし、損害賠償額を0にすることもできます。これも被害者保護のあらわれといえるでしょう。
ここがポイント(履行遅滞の時期・消滅時効)
次に、被害者保護という観点から、不法行為に基づく損害賠償請求における、履行遅滞の時期や消滅時効について考えてみましょう。
1 履行遅滞の時期
たとえば、他人を殴るとき、「○月○日までに払うからー!」と言いながら殴ることはないので、不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務ですね。そして、期限の定めのない債務は、一般に、債権者が債務者に請求した時から履行遅滞になるとされています。とすると、不法行為の場面でも、債権者(被害者)が債務者(加害者)に請求した時から、履行遅滞となって、遅延利息が発生するとも考えられます。
しかし、見ず知らずの人に殴られて逃げられてしまった場合、被害者は、加害者に請求しようと思っても請求することができず、被害者の保護になりません。
そこで、不法行為の場面では、不法行為の時から履行遅滞になるとして、被害者の保護を図っているのです。
2 消滅時効
一般の債権の消滅時効期間は、10年と定められています。また、消滅時効の起算点は、期限の定めのない債務の場合、債権成立時から起算することになっています。
しかし、加害者が誰かわからないような場合や、加害を受けたずっと後に後遺症が出た場合、債権成立時(不法行為時)から10年では短かいといえ、被害者の保護になりません。
そこで、民法は、不法行為による損害賠償の請求権は、被害者(またはその法定代理人)が損害「および」加害者を知った時から3年間行使しないとき、または、不法行為の時から20年を経過したときに、時効によって消滅する、と定めています。
ここがポイント(不法行為と相殺)
さらに、被害者保護という観点から、不法行為と相殺についても考えてみましょう。
1 相殺とは
相殺は、お互いに同種の債権を有している場合において、「チャラにする!」と言えば、現実にお金の移動がなくても、お互いの債権が消滅するものです。
そして、相殺する側から見て、債権を「自働債権」、債務を「受働債権」といいます(「じどうさいけん」と「じゅどうさいけん」…これ、口頭で言われると聞き取りにくいんですよね…)。相殺した場合は、自働債権については、債権の回収を、受働債権については、債務の弁済を、同時にしているといえます。
2 不法行為と相殺
結論から言いましょう。
不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権として相殺することはできません。
これに対し、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権として相殺することはできます。
平たく言い換えれば、たとえば、不法行為の被害者が加害者に対して債務(貸金債務など)を負っていた場合において、加害者側からの相殺はできないが、被害者側からの相殺はできる、ということです。
理由は、難しく言うと、被害者に対する現実の弁済が必要なことと、不法行為の誘発を防止するためです。
つまり、被害者は、たとえば、ひどく殴られたような場合、ケガにより仕事を休んで入院し、痛くて苦しんでいる状態です。こんな状態において、加害者側からの相殺(チャラにすること)を認めてしまうと、治療費等が被害者に現実に支払われなくなってしまいます。また、不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権として相殺することを認めてしまうと、たとえば、借金をしている人に対し、お金を貸している人が、なかなか返済してくれないことに業を煮やして、「貸した金の分だけ殴ってやれ、これで相殺だ!!」と殴ってしまうことも考えられます。新たな不法行為を誘発してしまうということですね。そこで、加害者側からの相殺は認められないのです。
これに対して、被害者自身が相殺する場合、自ら現実の弁済は必要ないと考えているわけですし、不法行為の誘発も考えられませんので、相殺が認められるのです。
いかがでしたでしょうか?不法行為の分野は、使用者責任、工作物責任、共同不法行為、動物飼育者の責任、注文者の責任等も出題されますが、まずは、今回お話しした一般不法行為について、しっかりとマスターしておきましょう。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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