宅建合格講座! 権利関係|「契約の解除」を解くときのポイント

仲井悟史

皆さんこんにちは。仲井です。今回は、民法の「契約の解除」のポイントを説明します。頻出分野であり、基本的なポイントを押さえれば、十分得点が見込める分野です。では、早速中身に入っていきましょう。

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目次

  • 契約の解除とは・解除権の行使
  • 履行遅滞・履行不能等による解除権
  • 解除の効果
  • その他

契約の解除とは・解除権の行使

1 契約の解除とは

債務不履行があった場合、債権者は、債務者に対して、損害の賠償を請求したり、契約の解除をすることができます。理屈上は、契約の解除によって契約がなくなると、損害賠償請求権もつられて消滅しそうですが、そうはなりません。解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げないのです(両方できるということで、これはよく出題されます)。

さて、「解除」の規定は、「取消し」と違い、「契約」(原則として、申込みと承諾の意思表示の合致で成立する)の場面で適用されます。これに対して、「取消し」の規定は、単独の意思表示の場合でも(例えば、だまされたり脅されたりして、相続の承認・放棄の意思表示をしたような場合)、適用されます。また、「契約の解除」は、債務不履行のように、契約をした当初は問題がなく、契約後に問題点が生じた場面が想定されますが(全部そうではありませんが…)、「取消し」は、意思表示をした当初から問題点があった場面が想定されます。

2 解除権の行使

契約(当事者が約定して解除事由を定めた場合等)または法律の規定(債務不履行や売主の担保責任等)により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によっておこないます(一方的な意思表示であり、「解除してもいいですよ」という相手方の承諾は要りません)。

この解除の意思表示は、撤回することができません。一方的な意思表示によって、軽々しく「契約をなしにするのをなしにすること」を認めてしまうと、解除の相手方の地位があまりに不安定になってしまいます。

ですから、「解除の意思表示をしても、すでに受領した物を返すまでの間は、その意思表示を撤回することができる」のような記述があった場合、それは誤りです。

履行遅滞・履行不能等による解除権

1 履行遅滞等による解除権

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間(具体的に何日かは試験では問われません。一般的に、対象物が金銭なら短いでしょうし、不動産なら長くなるでしょう)を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができます。

このように、履行遅滞の場合は、原則として、「○○日以内に履行してください」という催告を経て、契約の解除に至るわけですが、これには履行のラストチャンスを与えるという意味合いがあります。もしかしたら、単純に債務者が失念しているだけかもしれませんし、失念していなくても、催告といういわば最後警告をすることによって、債務者の気が変わることもあり得るということです。

なお、不相当な期間を定めた催告(「10分以内に持って来い」のようなイメージ)でも、催告自体は有効であり、客観的に相当な期間が経過すれば、契約の解除をすることができます。また、「2週間以内に履行しなさい。さもないと解除します」というように、催告と解除の意思表示は同時にすることができ、この場合、あらためて解除の意思表示をしなくても、期間が経過すれば、契約は解除されます。

以上に対し、契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、履行の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができます。例えば、夏祭り用のうちわや、クリスマスケーキのような場合です(定期行為の履行遅滞による解除権)。必要な期日が過ぎて意味がなくなったものを渡されても困りますよね。

2 履行不能による解除権

履行が不能となったときは、債権者は、履行の催告なしに、契約の解除をすることができます。履行の催告は、履行のラストチャンスを与える意味合いがありますが、履行不能の場合は、履行ができなくなっており、そのようなラストチャンスを与えても意味がないからです。

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3 「履行の提供」について

例えば、不動産の売買契約において、物の引渡しと代金の支払いが同じ日である場合、契約の当事者は、お互いに「あなたが渡してくれなければ、私も渡さない」と主張することができます(同時履行の抗弁)。この場合、正当な主張をしているわけですから、お互いに履行遅滞にならず、契約の解除をすることができません。

では、相手方を履行遅滞に陥れ、契約を解除するにはどうしたらいいのでしょうか?…要するに相手方の同時履行の抗弁権を奪ってしまえばよいのです。そして、「履行の提供」(「履行の催告」では足りません)をすれば、相手方の同時履行の抗弁権が消滅します。平たく言えば、目的物を相手方の目の前まで持っていけば、「あなたが渡すまでは、私も渡さない」と主張されても、「だから、いま目の前にあるじゃないですか」と言い返すことができるのです。

解除の効果

当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負います(原状回復義務)。解除があった場合、お互いにすでに受け取ったものは返さなければならないということです(なお、売買契約等の場合、お互いの原状回復義務に、同時履行の抗弁の規定が適用されます。すなわち、「あなたが返さないなら、私も返さない」と主張できるのです)。

ただし、原状回復義務といえども、第三者の権利を害することはできません。例えば、不動産の売買契約において、買主が第三者に転売し(解除前の第三者)、その後に契約が解除された場合、第三者が登記を備えて深い利害関係に入っているときは、その第三者の権利は保護されます(売主は「その不動産を返してよ」と言えなくなる)。なお、この場合、第三者の善意・悪意は問いません。あくまでも第三者の登記の有無で判断します。なぜなら、この場合の善意・悪意の対象は、「債務不履行があること」あるいは「債務不履行になるかもしれないということ」ですが、それを知っていたとしても、その時点では、その後に契約が実際に解除されるかどうかは分からないからです(債務不履行があっても、必ずしも契約が解除されるわけではない)。したがって、悪意の第三者でも、登記があれば、権利が保護されるのです。

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なお、この原状回復義務については、金銭(すでに受け取った売買代金等)を返還する場合、その「受領の時」からの利息を付さなければなりません。「解除の時」からではありませんので、注意しましょう。

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その他

細かいですが、「解除権の不可分性」「解除権の消滅」にも触れておきます。

1 解除権の不可分性

当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、「その全員から」(解除する側が複数)または「その全員に対して」(解除される側が複数)のみ、することができます(「みんなで一緒に。バラバラはややこしくなるからダメだ」ということです)。この場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅します。

2 催告による解除権の消滅

解除権の行使について期間の定めがないときは、いつ契約が解除されるか分からず、解除の相手方の地位がずっと不安定なままなので、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅します。「解除権が消滅」する(=解除できなくなる)のであって、「解除される」ではないので、注意しましょう。

3 解除権者の行為等による解除権の消滅

解除権を有する者が自己の行為もしくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、もしくは返還することができなくなったとき、または加工もしくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅します。これは分かりやすいでしょう。損傷した物や当初と違う物を返されても困りますよね。

…今日はこの辺にしておきましょう。債務不履行の分野では、今回学習した「解除」と前回学習した「損害賠償」をしっかりと押さえましょう。

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仲井悟史

あなぶきハウジングサービス 東京東支店:仲井 悟史(なかい さとし)
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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