宅建合格講座! 権利関係|「危険負担」を解くときのポイント

仲井悟史

皆さんこんにちは、仲井です。今回は、「危険負担」を学習します。全体的に出題が少ない分野ですので、細かいことは気にせずに、結論だけを把握するとよいでしょう。では早速中身に入ります。

0037教えて仲井先生!

目次

  • 不動産売買における危険負担
  • 履行遅滞中の滅失
  • 停止条件付売買契約における危険負担

不動産売買における危険負担

1 危険負担とは

民法では、「危険負担」について、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する」と規定しています。

「特定物」とは、「この物」というふうに特定されている物のことで(厳密には違いますが、宅建試験対策上は、この世に一つしかない物というイメージでかまいません)、不動産が典型例です。トマトやリンゴと違って(不特定物にあたります)、不動産は、たとえ形状や位置が類似していても、条件が全く同じになるわけではありませんので、特定物にあたります。

そこで、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合」の部分は、難しい表現ですが、宅建試験対策上は、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合」の部分を、「不動産の売買契約」と置き換えてかまいません。

そして、最初に、以下説明する「危険負担」の場面は、不動産の売買契約後(引渡し前)の場面だということを、しっかりと押さえておきましょう。

たとえば、建物の所有者Aが、Bと建物の売買契約を締結した後(引渡し前)、その建物が滅失した場合で考えてみましょう。

売買契約後に、建物を引き渡す債務を負っている債務者Aの責めに帰すべき事由(故意・過失、帰責事由、あるいは、帰責性、ともいいます)により、その建物が滅失した場合(たとえば、寝たばこをしてしまった、など)は、債務者Aの「債務不履行(履行不能)」であり、すでに学習したように、債権者である買主Bは、売買契約の解除や損害賠償請求をすることができます(なお、売買契約前に、すでに建物が滅失していた場合は、試験対策上、契約は無効であるとお考えください。また、引渡し後は、Aは義務を果たし、物はBが管理していますので、債務不履行や今回お話しする危険負担は問題となりません)。

では、売買契約後(引渡し前)に、債務者Aの責めに帰すべき事由によらずに、建物が滅失した場合(たとえば、地震・台風・雷や第三者の放火、など)は、どのように考えたらよいのでしょうか。

地震・台風・雷や第三者の放火により建物が滅失した場合、債権の目的物が滅失している以上、債務者Aは、その物を引き渡すことはできませんし、債務者Aは、責めに帰すべき事由がありませんので、債務不履行責任も負いません。

では、その滅失した建物の損失は、どちらが負担するのでしょうか?言い換えれば、買主Bは、その建物の代金を支払わなければならないのでしょうか?これが、「危険負担」の問題です。

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2 不動産売買における危険負担の結論

冒頭に示しましたように、民法は、このような場面では、「債権者の負担に帰する」としています。すなわち、建物引渡しについての債権者Bは、建物が滅失しているにもかかわらず、建物の売買代金を支払わなければならないのです。

また、この結論は、建物が損傷した場合も、同じです。売買契約後に、不動産が、債務者の責めに帰すべき事由によらずに、損傷した場合、その損傷は、債権者の負担となります。一部損壊(一部焼損)や半壊(半焼)の場合も、「売買代金を一部(半分)まけてください」とはならずに、建物引渡しの債権者(買主B)は、代金全額を支払わなければならないのです。

このように買主が危険を負担する理由としては、①前回「物権変動」で学習したように、売買契約時に買主に物の所有権が移転することや、②買主は、転売等により、物から利益を収取することができるので、損失も負担すべきだということや、③民法が明治時代に海外から日本に渡ってきた際の歴史的沿革、などが挙げられます。

理由はともかく、宅建試験対策上は、まずは、問題文から、不動産の滅失・損傷が、売主(債務者)の責めに帰すべき事由によって生じたのかどうかをチェックします。債務者(売主)の責めに帰すべき事由があれば、「債務不履行」の問題となり、債務者(売主)の責めに帰すべき事由がなければ、「危険負担」の問題となります。すなわち、「不動産の売買契約後、その不動産が、債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、その滅失または損傷は、債権者の負担に帰する(=買主は、不動産の売買代金を全額支払わなければならない)」と考えるのです。

もちろん、この結論を不合理に感じる方もいらっしゃるかと思います。不動産を離れて、たとえば、銀座の画廊で大きくて重い絵を買って、後日受け取りに行くこととした場合において、その日のうちにその画廊およびその中の絵が災害により滅失したときで考えてみましょう。数日後、買主が画廊に行くと、その絵が滅失していました。そこで、買主は、ふつう、「あー、今回の災害大変でしたね…。絵がない以上、あきらめて帰りますよ」と言うでしょう。ところが、売主から、「ちょっと待ってください、まだお代をいただいていません。民法では、今回のケースでは、買主が代金全額を支払うことになっているのです」と言われてしまうのです。これが、「危険負担」の結論なのです。買主としては、「絵がなくなっているのに、何で代金を支払わなければならないの?」と思うでしょう。そこで、実際は、「引渡しを受けたら代金を支払う」「登記が移転したら代金を支払う」というふうに、「特約」をすることが多いです。

履行遅滞中の滅失

ここからは、補足です。まずは、履行遅滞中の滅失についてです。

不動産の売買契約をしたが、売主が故意・過失により、引渡し期日を過ぎても不動産の引渡しをしない場合(履行遅滞)において、その建物等が災害や第三者の放火により滅失等したとき、滅失だけを見れば、「危険負担」の問題となりそうです。

しかし、判例は、そう考えずに、このような履行遅滞中の滅失は、債務不履行として扱うとしています(履行を遅滞している者が代金全額もらえてしまうのはおかしいので、危険負担として扱いません)。したがって、このような履行遅滞中の滅失の場合、買主は、契約の解除や損害賠償請求をすることができます。

停止条件付売買契約における危険負担

前述のように、民法の「危険負担」では、「不動産の売買契約後、その不動産が、債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、その滅失または損傷は、債権者の負担に帰する」とされていますが、不動産の売買契約に「私が転勤したら」「私が結婚したら」のような「停止条件」が付いていた場合、この結論は変わるのでしょうか?

実は、停止条件付売買契約の場合、不動産が滅失したか、損傷したかによって、結論が分かれてきます。以下、説明致します。

まず、停止条件付売買契約後、条件の成否が未定である間に目的物が滅失した場合には、「債権者が危険を負担する」という規定は適用されません。すなわち、買主は代金を支払わなくてよいのです(売主は代金を請求できません)。

これに対して、停止条件付売買契約の目的物が、債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、「債権者の負担に帰する」とされています。すなわち、買主は、代金全額を支払わなければなりません。

停止条件付売買契約については、さらに細かいですので、ここも結論だけをざっと押さえましょう。

…今日はこれぐらいにしておきましょう。

「危険負担」の分野では、不動産の売買契約において、滅失・損傷について、売主の責めに帰すべき事由がない場合、買主が危険を負担しますが、「停止条件付き売買で滅失のときだけは、売主が危険を負担するのだ」、とイメージしましょう。

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仲井悟史

あなぶきハウジングサービス 東京東支店:仲井 悟史(なかい さとし)
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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