皆さんこんにちは、仲井です。今回は、民法の「意思表示」と「代理」が複合した問題を解く際のポイントをまとめました。まずは、代理とは何かを説明したうえで、次に、代理行為においてトラブルが発生した場合を見ていきましょう。では中身に入ります。
- 代理とは(代理行為の要件・効果)
- 本人のためにすることを示さない意思表示
- 代理行為の瑕疵
- 代理人の行為能力
代理とは(代理行為の要件・効果)
代理は、代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示が本人に対して直接にその効力を生ずる制度です。
たとえば、Aが不動産を売りたいが、不動産に詳しくなかったり、忙しかったり、あるいは、制限行為能力者のように一人で契約等ができない等のため、Bに不動産の売却に関する権限を与えて、代わりにCとの間で契約等に向けた行為をやってもらった場合をイメージしましょう。このような場合、実際に契約のテーブルにつくのは、BとCですが、Bはただ代わりに契約の意思表示等の行為(代理行為)をやっているだけで、行為の結果はその場にいないAに帰属(効果帰属)します。その結果、Aが売主、Cが買主となり、Aは不動産を引き渡す義務等を負い、代金を支払ってもらう権利を有することとなるのです。これが代理という制度であり、これによって不動産に詳しくない人や忙しい人、あるいは、制限行為能力者等が取引をすることができるのです。世の中、代理のおかげで発展したと言っても過言ではありません。
ここで、上記の事例を通じて用語を確認します。まず、「不動産の売却に向けた行為を代わりにやってください」と頼んだAを「本人」、代わりを頼まれたBを「代理人」、代理行為の相手方であるCを「相手方」といいます(「代理」の分野は、このように基本的に3人の人物が登場しますが、問題文によってはBを本人、Aを代理人としていることもありますので、問題を解く際は、必ず図を書くようにしましょう)。
また、頼んでもいないのに他人がやった行為の結果が自己に帰属するのではたまったものではありませんので、代理が成立するには、本人AがBに代理をする権限を与えていることが必要です。この権限を「代理権」といいます(もっとも、制限行為能力の場合は、法律で代理権が与えられています)。
さらに、代理人Bが何も言わないで黙っているだけでは、相手方Cは、目の前にいるBと契約したと思ってしまうでしょう。誰と契約するかはとても重要なことです。「Bなら大丈夫」と思って契約したら、後で全然違うAが「私が本人です」と言って登場してきたら、Cはガッカリしてしまうでしょう。ですから、Bは代理行為に際して「私はAの代理人のBです」というふうに、本人のためにすることを表示しなければなりません。このような表示を「顕名(けんめい)」といいます(懸命にやれということではありません!)。
本人のためにすることを示さない意思表示
では、このような「顕名」がない場合はどうなるのでしょうか。
この点、代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、原則として自己のためにしたものとみなされます。すなわち、代理人B自身がCと契約したことになってしまうのが原則です。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは、本人に対して直接に効力を生じます。すなわち、相手方Cが、悪意、または善意有過失のときは、本人Aに効果帰属します。
代理行為の瑕疵
次に、「代理行為」に問題点があった場合、どのように考えたらよいのでしょうか。
1 取消権が発生するかどうかの基準
この点、意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫またはあることを知っていたこともしくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとされます。
すなわち、錯誤や詐欺・強迫があったかどうかや、たとえば瑕疵等について知っていたかどうかについては、実際に契約のテーブルについている代理人Bを基準に判断します。たとえば、相手方CによりBに対して騙す行為があった場合、騙されたかどうか、すなわち、詐欺による取消権が発生するかどうかは、代理人Bを基準に判断します。
なお、特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図にしたがってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができません(本人が過失によって知らなかった事情についても同様です)。たとえば、代理人Bが騙された場合でも、本人Aがその事情を知っていたときは、本人Aは、「代理人は知らなかった」と相手方Cに主張することができず、詐欺による取消権は発生しません。
2 取消権者
以上のように、相手方により代理人に対して騙す行為があった場合、原則として騙されたかどうかは代理人を基準に判断します。では、代理人が騙されたとして、詐欺によって発生した取消権は誰が行使するのでしょうか。
そもそも代理とは、代理人の行為の効果が本人に帰属する制度でした。とすれば、「この契約は取り消すことができるんだ(=取消権が発生している)」ということも本人に帰属します。
したがって、本人Aが発生した取消権を行使することができます。これはよく出題されます(なお、代理人Bが取消権を行使できるかどうかは、代理人Bが取消しの代理権を与えられているかどうかによります)。
代理人の行為能力
最後に、代理人が未成年者だった場合は、どのように考えたらよいのでしょうか。未成年者も代理人になることができるのでしょうか。
この点、代理人は、行為能力者であることを要しません。なぜでしょう。
そもそも未成年者等が損をしないように保護するのが制限行為能力者制度ですが、未成年者等が代理人となっても、結果は全て本人に帰属し、本人が責任を負いますので、未成年者等は何ら損をしません。また、本人は、「たとえ未成年者がヘタな取引をして自分が損しても、それでもいいや」というふうに、あらかじめ分かっているのに未成年者等にあえて代理人になってもらっている以上、結果として損をしたとしても、それは仕方のないことといえるのです。
そのような理由から、未成年者が代理行為をおこなっても、本人は、代理人が未成年者であることを理由に取消しを主張することはできないのです。
…いかがでしたでしょうか。今まで意思表示の分野(取消し・無効、第三者との関係)と代理の分野の「無権代理(代理権がない場合、与えられた代理権を超えた場合、与えられた代理権が消滅した場合、等)」「表見代理」を説明し、今回は、意思表示と代理の複合問題について説明しましたが、代理は範囲が広く、民法の他の分野や、宅建業法や法令上の制限等の他の科目とも関連する分野ですので、特にしっかりとポイントを押さえましょう。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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