こんにちは、仲井です。民法も最終回です。今回は、「手付」がテーマでして、手付の中でも出題の多い解約手付を中心にポイントをご説明します。宅建業法にもかかわるので、しっかりマスターしましょう。
目次
- 手付の種類
- 解約手付について
- 債務不履行解除との関係
手付の種類
手付とは、売買契約等の際に、買主から売主に交付される金銭で、証約手付、違約手付、解約手付、という種類があります。以下、ご説明しましょう。
まず、証約手付とは、契約が成立した証拠としての手付で、全ての手付が証約手付の性質を有するとお考えください。たとえば、「契約なんかしたっけ?」と、買主がとぼけても、手付を示して「何言ってんだ。契約したじゃないか」と主張できるのです。
違約手付は、契約違反等に備えた手付で、損害賠償額の予定としての意味を持つときと、損害賠償とは別にペナルティとして没収する違約罰としての意味を持つときがあります。
では、解約手付はどのようなものでしょうか。本来、いったん契約したら、債務不履行等の事情がない限り、簡単に解除できませんが、買主が売主に手付を交付したときは、債務不履行等の事情がなくても、手付によって契約を解除できます。これが解約手付です。
以上が手付の種類の説明ですが、手付は、証約手付という性質を有するほか、特約がなければ解約手付と推定されます。特約がなければ、証約手付に加え、解約手付の性質もあわせ持つということですね。もちろん、特約があれば別です。ですから、「特約にかかわらず常に解約手付の性質を有する」と出題されたら、誤りです。
なお、細かいですが、手付契約は、要物契約です。意思表示の合致だけでなく、物を渡すことが必要な契約が要物契約です。要物契約には、手付のほか、使用貸借、消費貸借、寄託、質権設定、代物弁済があります。
解約手付について
1 解約手付とは
解約手付による解除は、約定解除の一つです。解除には、一方的におこなわれる、法定解除(債務不履行解除等、解除事由が法定されている)や約定解除(手付等、当事者が解除事由を取り決める)のほかに、契約当事者の合意による合意解除がありますが、手付による解除は約定解除にあたります。「解除権は、約定によって発生することはない」と出題されたら、誤りです。
そして、前述のように、買主が売主に手付を交付したときは、債務不履行等の事情がなくても、手付によって契約を解除できます。「ほかにいい買主(売主)が見つかった」等、自己の都合で解除してもかまいません。
2 解約手付の制限
ただし、解約手付による解除には一定の制限があります。
すなわち、買主が売主に手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができます。
買主は、交付した手付をあきらめれば、手付による契約解除ができますし、売主は、交付を受けた手付に加えて、さらに同じ額を償還すれば(手付倍返し)、手付による契約解除ができるのですが、契約の相手方が履行に着手した段階で、契約を解除すると、今までの準備が無駄になって、相手方に迷惑をかけてしまいます。そこで、相手方が契約の履行に着手したら、手付による契約解除ができなくなります。
逆に、解約の解除をしようとする「自分」が履行に着手しているにすぎない場合は、手付による契約解除をすることができます。
債務不履行解除との関係
最後に、手付と債務不履行解除との関係にも触れておきましょう。
1 損害賠償額について
債務不履行に基づいて契約を解除した場合、損害が生じていれば、損害賠償請求をすることができますが、その金額は、手付の金額に限定されません。すなわち、損害賠償額が手付金の金額になったり、手付金額の倍額になったりするのではなく、通常通り「受けた損害はこれだけですよ」と損害額を証明していくことになります。
これに対して、解約手付による契約解除の場合は、損害額にかかわらず、買主は手付放棄、売主は手付倍返しとなり、それ以上に賠償請求をすることはできません。なぜなら、解約手付の場合、もともと「この金額の範囲で解決しましょうね」という趣旨で手付を交付しているところ、債務不履行解除をすることができるのにもかかわらず、あえて解約手付による契約解除を選んでいるのであり、そのような者に、手付金額以上の主張を認める必要がないからです。
2 手付金の返還について
債務不履行に基づいて契約を解除した場合、売主に交付された手付は、買主に返還されます。なぜなら、契約を解除した場合、契約の当事者は、お互いに契約前の状態に戻す義務があるからです(原状回復義務)。
これに対して、解約手付による契約解除の場合は、前述の通り、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還することになります。
いかがでしたでしょうか?次回から、法令上の制限や宅建業法の学習に入っていきます。理解することが多い民法と違い、暗記することが多い科目ですが、覚えれば覚えるほど、どんどん点数が伸びていくと言えるでしょう。
ところで、法令上の制限や宅建業法の問題では、「違反するものはどれか」とか、「不要なものはどれか」という形式で出題されることがあります。このような問題を解くときに、問題用紙の選択肢の横っちょに「○」「×」を付けている方はいませんか?この場合、問題を解いている途中で、「違反するから○」なのか「違反するから×」なのか分からなくなってしまうことがあります。面倒でも選択肢の横に、「する」「しない」、「必」「不」と記載するようにしましょう。過去問等を解く際は、こんなことにも注意しながら解いてみるとよいでしょう。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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