皆さんこんにちは、仲井です。今回から、2回にわたり「物権変動」を学習します。登場人物が多く、問題文が長文になることが多い分野ですが、ポイントをしっかり押さえていれば、正解肢を導くことができます。では、早速、中身に入っていきましょう。
目次
- 所有権の移転
- 不動産に関する物権の変動の対抗要件
- 登記がなければ対抗できない「第三者」の範囲
所有権の移転
「物権変動」の分野は、不動産の二重譲渡をめぐる問題が内容の中心となってきますが、その前提として、所有権の移転について説明いたします。たとえば、物の所有者AとBが、その物の売買契約をした場合、最初は、Aがその物の所有権を有していますが、売買契約によって、この所有権は、いつBに移るのでしょうか。
この点、民法では、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定めています。
すなわち、原則として、AとBの、「売ります」「買います」という意思表示が合致した段階で、Bに物の所有権が移転するのです(特約があれば別ですが)。
不動産に関する物権の変動の対抗要件
1 「不動産の二重譲渡」って?
さて、次に、AがBに対して不動産を売却する契約をして、さらに、AがCに対しても不動産を売却する契約をした場合を考えてみましょう。いわゆる不動産の「二重譲渡」の場合であり、この場合、BとCのうち、どちらが自己の所有権を主張(対抗)できるのでしょうか。
ここで、「不動産の二重譲渡なんてあり得るのか?」と思った方がいらっしゃるかもしれません。確かに、理屈上は、AがBに対して不動産を売却する契約をした時点で、Bに不動産の所有権が移転しているので、その後に、AがCに対して不動産を売却する契約はできないように思われます。しかし、民法はそう考えません。そして、現実に二重譲渡という事象が起きている以上、「理屈上できない」ではなくて、「起こったらどう解決するか」を考えなければならないのです。不動産は1つですので、現実問題として、両者の勝敗(優先順位)を決しなければなりません。
2 「不動産の二重譲渡」の優先関係の基準
では、民法は、どのように考えているのでしょうか。売買契約をした順番を基準にするのでしょうか。しかし、先の事例のCの立場に立ってみると、Cは、契約関係に入った時点で、先にAとBの売買契約があったということを知らない可能性があります。Aに登記が残っていれば(AからBに登記を移していなければ)、なおさら、Cは、「Aが所有者である。自分はAから買ったのだ」と思いこんでしまう可能性があります。…そもそも売買契約は、AとBとの間の意思表示の合致だけで成立する、いわばCにとって「見えないもの」です。
とすれば、二重譲渡の場合、「目に見える」ものを基準にすればいいということになります。何があるでしょう?…そうです、「登記」ですね!これならCにとって「目に見える」ものです(しかも、売買契約は、BもCも同じ日に締結することができますが、登記は、BとCが同時にすることはできません)。
したがって、不動産の二重譲渡の場合、「登記を先にした方が勝ち」「登記のない方が負け」という結論になります。
そこで、民法では、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。
すなわち、売買契約の順番に関係なく、Bに登記がなければ、Bの負け(所有権を主張できない)です。Bは、売買契約をした時点で、すぐに登記ができたはずであり、それを怠っている以上、他の人に不動産を取られても仕方がないといえるでしょう。「ボケッとしている方が悪い!」、ということですね。民法は、登記をしない人に冷たいといえるかもしれません。
…昔、漫才で、二人のうちの片方がゴムひもを口にくわえて、もう片方がそのゴムひもを思いっきり引っ張ってから手を放す、というのがありましたが、不動産の二重譲渡の場合も、AからBに、AからCに、「所有権」というゴムひもが伸びて、登記のない方からゴムひもが離れ、登記のある方にゴムひもが「ピュッ」と集まる、…そんなイメージかもしれません。
登記がなければ対抗できない「第三者」の範囲
以上のように、不動産の二重譲渡の場合、登記がなければ第三者に対抗できませんが、以下、登記がなければ対抗できない「第三者」の範囲を説明いたします。
1 単純悪意者の場合
単に悪意の場合は、「第三者」に含まれます。不動産の二重譲渡の場合、単に悪意である第三者に対しても、登記がなければ所有権を対抗できません。すなわち、先の事例で、Cが単に悪意だった場合(Cが、先にAとBの売買契約があったということを、単に知っていたに過ぎない場合)、Bは、登記がなければ、Cに対して、所有権を主張することはできません。
この理由を説明するのに、よく「資本主義社会における自由競争の範囲」というキーワードが使われたりします。すなわち、自由競争の社会では、たとえ先に売買契約の存在を知っていたとしても、自己の権利を守ることもせずボケッとしている者より、より良い条件を示した「商売上手」な者の方が優先する、と考えるのです。民法は、「買ったらさっさと登記をしなさいよ。でないと他の人に取られちゃうよ」とおどしをかけているとも言えるでしょう。
2 当事者間の場合
なお、売買契約の当事者間の場合、「第三者」にあたりません。言い換えれば、売買契約の買主は、登記がなくても、売主に所有権を主張できます。これは分かりやすいですね。売主Aが、「おまえ、登記がないじゃないか」と主張しても、買主Bは、「あなたが登記を移転しないから、登記がないのは当たり前だ!さっさと登記を移転してよ」と言えるのです。
…登記で優先関係を決めるのは、あくまで「二重譲渡」のような場合なのです。
3 売主死亡の場合
では、AとBがA所有の不動産の売買契約をした場合において、売主Aが死亡して、CがAを相続したときはどうでしょう?
一見すると、AからB、AからCへの二重譲渡とも考えられます。しかし、そもそも相続とは、所有権だけではなく、被相続人の全ての権利や義務を承継するものでした。とすれば、相続人Cは、Aの売主たる地位全体を承継したといえます。言い換えれば、相続人CとBの関係は、当事者(売主と買主)の関係といえます。
したがって、買主Bは、登記がなくても、売主の相続人Cに対して、所有権を主張できます。
…今日はこれぐらいにしておきましょう。今回は、「不動産の二重譲渡の場合、登記がなければ第三者に対抗できない」ということを学習しました。しかし、実は、これには例外、すなわち、「登記がなくても第三者に対抗できる」場合があるのです(したがって、正確に言えば、今回学習したことは「不動産の二重譲渡の場合、原則として、登記がなければ第三者に対抗できない」です)。言い換えれば、自由競争の範囲を超えた悪質な場合があるのです。この例外は、次回説明しましょう。また、次回は、あわせて「取消し後の第三者(復帰的物権変動)」についても学習します。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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