皆さんこんにちは、仲井です。今回は、「相殺」を学習します。出題回数は少ないですが、ポイントを知っていれば得点につながりやすいです。では、早速、中身に入っていきましょう。
- 相殺とは(用語の説明、相殺の方法、相殺と弁済期の到来等)
- 相殺と時効、相殺と不法行為
相殺とは(用語の説明、相殺の方法、相殺と弁済期の到来等)
1 用語の説明等
相殺(そうさい)は、二人がお互いに同種の目的を有する債権(たとえば、金銭債権と金銭債権)を有している場合において、どちらかが「帳消しにする」と言えば、実際に現金等の移動がなくても、お互いが債務を免れるものです。たとえば、甲が乙に対して20万円、乙が甲に対して10万円の金銭債権を有している場合において、相殺をしたときは、重なる10万円(対当額といいます)の債権については、お互いに現金の支払い等をしなくても、消滅するのです。
なお、相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができます。
そして、相殺する側から見て、債権を「自働債権」、相殺する側から見て、債務を「受働債権」といいます(「じどうさいけん」と「じゅどうさいけん」は、口頭で言われると区別しづらいので、受働債権は、「うけかたさいけん」と呼ばれることもあります)。相殺した場合は、自働債権については、債権の回収を、受働債権については、債務の弁済を、同時にしているといえます。
2 相殺の方法
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によっておこないます。この場合において、その意思表示には、条件または期限を付することができません。
相殺は、一方的な意思表示であり、相殺の意思表示の相手方の地位は不安定といえます。この場合において、その意思表示に条件や期限を付けてしまうと、相手方の地位がさらに不安定なものとなってしまいます。そこで、相殺の意思表示には条件や期限を付けることができないとされているのです。
3 相殺と弁済期の到来
たとえば、甲と乙が互いに金銭債権を有している場合において、甲の債権の弁済期と、乙の債権の弁済期が異なるとき、どのように考えたらよいのでしょうか。以下、甲の立場に立って考えてみましょう。
まず、甲の債権(甲にとって自働債権)の弁済期が先に到来する(乙の債権の弁済期が後に到来する)場合において、甲の債権の弁済期が到来した時点で、甲は、相殺をすることができるのでしょうか。甲の立場に立つと、相殺することによって、期限の到来している甲の債権(自働債権)については、乙から弁済期に債権を回収したことになるので、問題はありません。甲の債務(受働債権)については、まだ弁済期が到来していなくても、甲は、相殺によって、自ら早めに乙に対して債務の弁済をしたことになるので、これも問題ありません。したがって、自働債権の弁済期が先に到来した場合、甲は、相殺をすることができます。
では、乙の債権(甲にとって受働債権)の弁済期が先に到来する(甲の債権の弁済期が後に到来する)場合において、乙の債権の弁済期が到来した時点で、甲は、相殺をすることができるのでしょうか。甲の立場に立つと、相殺することによって、期限の到来している甲の債務(受働債権)については、弁済期に乙に対して債務の弁済をしたことになるので、問題ありません。しかし、甲の債権(自働債権)については、まだ弁済期が到来していないのに、甲は、相殺によって、乙から債権を回収してしまうことになってしまいます。そもそも、乙は、弁済期が到来するまでは、自己の債務の弁済をする必要がありません(期限の利益)。したがって、自働債権の弁済期が未到来の場合、甲は、相殺をすることができません。
結局、双方の債権の弁済期が異なる場合、自働債権の弁済期が到来しているかどうかをチェックし、自働債権の弁済期が到来していれば、甲は、自己の債務の期限の利益を放棄することによって、相殺をすることができます。これに対し、甲の自働債権の弁済期が未到来のときは、乙の期限の利益があるため、甲は、相殺をすることができません。
相殺と時効、相殺と不法行為
1 時効により消滅した債権を自働債権とする相殺
民法では、「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる」とされています。
すなわち、「相対する同種の債権の存在」や「弁済期の到来」等の条件を満たして、債権が相殺に適する状態になっている場合(相殺適状といいます)、お互いに「相殺されただろう」と考え、何も言わないまま時間が経過してしまうことがあります。このような「相殺されただろう」という期待を保護するため、自働債権が時効によって消滅しても、その債権者は、相殺をすることができる、とされているのです。
2 不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
民法では、「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」とされています。つまり、不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権として相殺することはできません。
これに対し、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権として相殺することはできます。
平たく言い換えれば、たとえば、不法行為の被害者が加害者に対して債務(貸金債務など)を負っていた場合において、加害者側からの相殺はできないが、被害者側からの相殺はできる、ということです。
理由は、難しく言うと、被害者に対する現実の弁済が必要なことと、不法行為の誘発を防止するためです。
つまり、被害者は、たとえば、ひどく殴られたような場合、ケガにより仕事を休んで入院し、痛くて苦しんでいる状態です。このような状態において、加害者側からの相殺を認めてしまうと、治療費等が被害者に現実に支払われなくなってしまいます。また、不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権として相殺することを認めてしまうと、たとえば、借金をしている人に対し、お金を貸している人が、なかなか返済してくれないことに業を煮やして、「貸した金の分だけ殴ってやれ、これで相殺だ!」と殴ってしまうことも考えられます。新たな不法行為を誘発してしまうということですね。
そこで、加害者側からの相殺は認められないのです。
これに対して、被害者自身が相殺する場合、自ら現実の弁済は必要ないと考えているわけですし、前述のような不法行為の誘発も考えられませんので、相殺が認められるのです。
…今日はこれぐらいにしておきましょう。「相殺と弁済期の到来」と「相殺と不法行為」は、相殺の中で出題が多いので、結論をしっかりと押さえましょう。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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