皆さんこんにちは、仲井です。前回、「代理」の分野の、「顕名」や「代理行為」等についてポイントを説明致しました。今回は、「代理権」がテーマで、「代理権」に関連する問題点について説明致します。早速中身に入っていきましょう。
- 権限の定めのない代理人の権限
- 復代理
- 代理権の消滅事由
- 無権代理
権限の定めのない代理人の権限
代理には、任意代理(本人の依頼によって代理権が発生する場合です)と法定代理(法律の定めによって代理権が発生する場合です。たとえば、未成年者の場合、民法の親権等の規定に定められています)があります。
そして、任意代理の場合、あらかじめ代理をする権限の範囲を決めておくのが通常ですが、権限の定めのないときは、代理人は、保存行為、または、代理の目的である物もしくは権利の性質を変えない範囲内において、その利用もしくは改良を目的とする行為のみ、おこなうことができます。
たとえば、修繕のような保存行為や、預金をして利息を得るような利用・改良行為はおこなうことができますが、畑を住宅地に変更したり、不動産を売却処分するような行為はできないのです。
復代理
1 任意代理人による復代理人の選任
代理人は、どんな場合でも、頼まれたことを自らやらなければならないのでしょうか。
この点、代理権があっても、事情があってどうしても依頼されたことができない場合もあるでしょう。もっとも、任意代理における本人は、代理人を信頼して代理権を与えたので、代理人が簡単に他の人に対して依頼されたことを丸投げしてしまっても困ります。
そこで、任意代理人は、「本人の許諾を得た」とき、または、「やむを得ない事由がある」ときでなければ、復代理人を選任することができないとされます。
そして、任意代理人は、復代理人を選任したときは、その選任および監督について、本人に対してその責任を負います。もっとも、代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、この責任を負いません(ただし、その代理人が、復代理人が不適任または不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知しまたは復代理人を解任することを怠ったときは、この限りではありません。「おかしいと思ったら言え」ということですね)。
2 法定代理人による復代理人の選任
法定代理人は、「自己の責任で」復代理人を選任することができます。法定代理人の代理権の範囲は幅広いので、復代理人を選任するのは一向に構わないのですが、そのかわり、全責任を負うことになるのです。
ただし、やむを得ない事由があるときは、選任および監督について責任を負います。
3 復代理人の権限
復代理人が選任された場合、復代理人はどのような立場なのでしょうか。
復代理人は、その権限内の行為について、「本人を代表」します。そして、復代理人は、本人および第三者に対して、「代理人と同一」の権利を有し、義務を負います。
すなわち、たとえば、本人A、代理人B、相手方C、復代理人Dの場合、Dは、代理人Bから選任されるものの、あくまで「本人の」代理人ですので、「私はA代理人Dです」と顕名し、行為の結果は、代理人Bではなく、本人Aに帰属するのです。
代理権の消滅事由
前述のように、代理権は、本人の依頼や法律によって発生します。では、代理権はどのような場合に消滅するのでしょうか。
まず、法定代理の場合、代理権は、本人の死亡、代理人の死亡、または、代理人が破産手続開始の決定もしくは後見開始の審判を受けたことによって消滅します。逆に、本人が破産手続開始の決定または後見開始の審判を受けても、代理権は消滅しません。法定代理の場合、本人が破産手続開始の決定または後見開始の審判を受けたときは、むしろ代理を継続して、本人のため法定代理を全うするべきなのです。
これに対して、任意代理の場合、代理権は、本人の死亡、代理人の死亡、または、代理人が破産手続開始の決定もしくは後見開始の審判を受けたことに加え、本人が破産したことによっても消滅します。任意代理の場合、場合によっては、代理人が金銭を預かったり、本人が報酬を支払ったりする場面が生じることがあるでしょうが、代理人や本人が破産手続開始決定を受けたときは、任意代理の前提である信頼関係がなくなってしまうので代理権が消滅するということです。
なお、不動産登記法では、「委任による登記申請のための代理権は、本人に死亡等の事由が生じても消滅しない」と規定されています。
さて、ここで、前回学習した「代理人は、行為能力者であることを要しない」という知識を思い出してください。これは、最初から制限能力者だと分かっていて、本人がその者にあえて代理権を与えた場合の話です。これに対して、今回学習した「代理権は、代理人が後見開始の審判を受けたことによって消滅する」という知識は、代理権が発生した後に、代理人が後見開始の審判を受けた場合の話です。すなわち、代理権が発生した当初に予想できなかった出来事が生じているので、代理権が消滅するのです。「代理人は、行為能力者であることを要しない」という知識と「代理権は、代理人が後見開始の審判を受けたことによって消滅する」という知識は、場面が違うので、混乱しないようにしましょう。
無権代理
代理人として行為している者に代理権がなかった場合、たとえば、そもそも代理権を本人が与えていなかった場合や、与えられた代理権が代理人の破産手続開始決定により消滅した場合、行為の効力はどうなるのでしょうか。また、本人は何ができるのでしょうか。
1 無権代理
このように、A(本人)が代理権を与えていないのに(または与えた代理権が消滅しているのに)、B(無権代理人)が、C(相手方)と契約してしまったなどという場合を、「無権代理」といいます。
ほかにも、与えられた代理権を越えて代理人が契約をしてしまった場合も、「無権代理」にあたります。
民法の「無権代理」の規定では、「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない」とされています。
無権代理は、原則として、本人に対してその効力を生じませんが、本人は、無権代理について、追認または追認拒絶をすることができます。
では、本人は、この追認または追認拒絶を、誰に対してしたらよいのでしょうか。この点、「追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない」とされています(ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りではありません)。たとえば、本人が代理人に対して追認をしても、相手方がその事実を知らないときは、本人は、相手方に対して追認したことを主張することができないため、相手方は、無権代理行為の取消権を行使すること等ができるのです。
2 無権代理行為の追認
そして、追認については、別段の意思表示がないときは、契約の時に「さかのぼってその効力を生じる」ということも、押さえておきましょう。
無権代理行為を追認した場合、追認した時からその契約等の行為が有効となるのではなく、行為をした時から有効となるのです。これはよく出題されます。
3 自己契約および双方代理
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、または当事者双方の代理人となることはできません。
たとえば、Aの代理人Bが、B自身を相手方として不動産の売買契約をしたり(自己契約)、Aの代理人BとCの代理人Bが不動産の売買契約をしてしまうこと(双方代理)はできません。
どちらも、BがBと契約をしていますが、売主はできるだけ高く売りたいのであり、買主はできるだけ安く買いたいのであり、Bが、両方のためにベストを尽くすことはできません。
そこで、自己契約・双方代理は、本人を害する蓋然性が高いので無権代理の一種とされています。
もっとも、債務の履行(登記の移転等、決まっていることを実行するだけの行為)および本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではありません。問題文で、「隠れて」などとあれば、「本人の許諾がないのだな」と判断してください。
…いかがでしたでしょうか。3回にわたって「代理」の分野を説明しました。「代理」は、「抵当権」や「相続」とならんで民法の中で範囲が広い分野ですが、しっかりとマスターすれば、かなり楽になります。頑張りましょう!
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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