熊本地震からマンション防災を考える⑤ 「地震保険は有効であったか?」

松井 久弥

 

熊本地震から考えるマンション防災の5回目は、地震保険が有効であったかどうかについて事例を元にご紹介します。共用部分の火災保険はほぼ100%のマンションで付保されていますが、地震保険になると加入率が低下しているのが現状です。

⑤地震ファイナル

目次

  • 地震保険とは
  • 全損・半損・一部損の認定について
  • 事例を元に検証してみる
  • 専有部分における家財保険の重要性
  • まとめ

 

地震保険とは

まず最初に、地震保険は単独で加入することはできません。これは地震保険に関する法律で決められており、必ず火災保険に付帯して加入することが必要です。そして地震保険は地震だけではなく噴火またはこれらによる津波を原因とする火災、損壊、埋没、または流出による損害を補償します。言い換えると火災保険だけでは地震等を直接または間接の原因とする損害は補償されないため、これらの損害をカバーする場合には地震保険を付帯する必要があります。

そして地震保険の役割は被災後の当面の生活を支える保険であり、地震保険の保険金だけでは必ずしも被災建物を元に戻すほどの充分な保険金が支払われない可能性があります。ただし支払われた保険金を建物を元どおりにする資金の一部に充てることは可能です。

 

全損・半損・一部損の認定について

地震保険は損害の程度によって「全損」「半損」「一部損」の損害区分で認定され、それぞれ付帯した保険金額の「100%」「50%」「5%」が支払われます。損害が一部損に至らない時や、門・塀・垣・エレベーター・給排水設備のみの損害の場合は保険金は支払われません。(この損害区分については2017年1月に改定がおこなわれ、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」と4区分に変更されることとなりました)

地震保険に入っていれば必ず保険金が支払われると思っている方も多いと思いますが、実際には支払い可否や保険金額は損害によって異なるのです。

 

事例を基に検証してみる

今回の熊本地震における地震保険の支払い事例をご紹介します。

全て熊本市内のある地震保険を付保している分譲マンション、戸数40~50戸、新耐震、熊本地震でマンションに被害を受けました。

 

Aマンション 半損認定  支払保険金 40,000,000円超

Bマンション 半損認定  支払保険金 25,000,000円超

Cマンション 一部損認定 支払保険金 8,000,000円超

Dマンション 一部損認定 支払保険金 5,000,000円超

Eマンション 認定されず 支払保険金 0円

このように同市内・同規模のマンションであっても、認定の可否や支払保険料には大きな差が出ました。これは地震被害による損害割合の差と考えても良いでしょう。また保険会社によっても判断基準に傾向があったように感じます。多くのマンションでは管理会社が保険代理店として保険会社との窓口サポートさせていただきましたので、比較的スムーズな対応ができたと思います。

 

専有部分における家財保険の重要性

マンションの専有部分における地震保険は「建物」「家財」にそれぞれ一方または両方を付帯することが可能です。地震保険は火災保険にセットして契約するものですから、火災保険同様、専有部分については各区分所有者が共用部分については管理組合が契約することになります。 ※火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で地震保険の保険金額を決めることになります。

今回の熊本地震でも発生した地震が原因による上階からの漏水被害はご自身の家財地震保険しか対応できませんでした。自然災害には賠償責任が発生しないという解釈で通常の保険金支払いの対象外となります。また、専有部分が被災したら忘れずに損害状況を撮影しておきましょう(り災証明交付申請にも必要です)。

 

まとめ

地震保険は決して安い商品ではありませんので加入するかどうかは慎重に検討する必要があるのですが、万一被災した際には大きな威力を発揮することがあります。今回の熊本地震を機に管理組合の財務状況から損害復旧費用が捻出できるかどうか、建物の構造・立地はどうか等、理事会等で点検してみてはいかがでしょうか。

 

<参考記事>

地震保険の加入を検討するときに知っておきたい6つの基礎知識

分譲マンション共用部地震保険での支払い事例と保険内容の改定について

熊本地震からマンション防災を考える①「地震被害の状況」

熊本地震からマンション防災を考える②「地震発生直後に起こったこと」

熊本地震からマンション防災を考える③「本当に必要だった備蓄品とは<自助編>」

熊本地震からマンション防災を考える④「本当に必要だった備蓄品とは<共助編>」

 

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松井 久弥

あなぶきハウジングサービス:松井 久弥(まつい ひさや)
2000年あなぶきハウジングサービス入社。
全国10都道府県において、管理担当・リプレイス営業・新規拠点立上げ・部門責任者に従事。特にマンション管理会社のM&Aにおいては、案件化からデューデリ・譲渡契約・お客様対応全般・統合後プロセス(PMI)までを実践。
マンション管理士、M&Aシニアエキスパート。
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