5年ぶりに変わった「マンション標準管理規約」改正のポイント⑦~議決権、理事会の代理出席、管理費等の滞納に対する措置等~

北林真一

平成28年3月のマンション標準管理規約コメントとして、新たに建てられるマンションの議決権割合の選択肢として、住戸の価値に大きな差がある場合においては、単に共用部分の共有持分の割合によるのではなく、専有部分の階数(眺望、日照等)、方角(日照等)等を考慮した価値の違いに基づく価値割合を基礎として、議決権の割合を定めることも考えられる旨の解説が追加されました。(標準管理規約コメント第46条関係③)

これに関連して、2016年8月31日NHKのクローズアップ現代で「どうするマンショントラブル!?新ルールで住民激震!?」という番組がありました。つまり、「価値の高い部屋の持ち主に多くの議決権を設定」ということです。

マンション標準管理規約および同コメントには、いくつかの改正点があります。今回は、「議決権」、「理事会の代理出席」「管理費等の滞納に対する措置」「マンション管理状況などの情報開示」等について、ご紹介します。

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目次

  • 議決権(第46条関係)
  • 理事会の代理出席(第52条関係)
  • 管理費等の滞納に対する措置(第60条関係目次2)
  • マンション管理状況などの情報開示(第64条関係)
  • まとめ

 

議決権(第46条関係)

代理人の要件(第46条第5項の新設追加)

組合員が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、以下の各号に掲げる者でなければならない。

一 その組合員の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族

二 その組合員の住戸に同居する親族

三 他の組合員

議決権割合

▶新築物件における選択肢として、総会の議決権(及び分譲契約等によって定まる敷地等の持分割合)について、住戸の価値割合に連動した設定も考えられる旨の解説が以下のとおり、追加されました。(第46条関係コメント)

【第46条関係コメント③、⑤、⑥の新設追加】

③ ①や②の方法による議決権割合の設定は、各住戸が比較的均質である場合には妥当であるものの、高層階と低層階での眺望等の違いにより住戸の価値に大きな差が出る場合もあることのほか、民法第252条本文が共有物の管理に関する事項につき各共有者の持分の価格の過半数で決すると規定していることに照らして、新たに建てられるマンションの議決権割合について、より適合的な選択肢を示す必要があると考えられる。これにより、特に、大規模な改修や建替え等を行う旨を決定する場合、建替え前のマンションの専有部分の価値等を考慮して建替え後の再建マンションの専有部分を配分する場合等における合意形成の円滑化が期待できるといった考え方もある。

このため、住戸の価値に大きな差がある場合においては、単に共用部分の共有部分の割合によるのではなく、専有部分の階数(眺望、日照等)、方角(日照等)等を考慮した価値の違いに基づく価値割合を基礎として、議決権の割合を定めることも考えられる。

この価値割合とは、専有部分の大きさ及び立地(階数・方角等)等を考慮した効用の違いに基づく議決権割合を設定するものであり、住戸内の内装や備付けの設備等住戸内の豪華さ等も加味したものではないことに留意する。

また、この価値は、必ずしも各戸の実際の販売価格に比例するものでなく、全戸の販売価格が決まっていなくても、各戸の階数・方角(眺望、日照等)などにより、別途基準となる価値を設定し、その価値を基にした議決権割合を新築当初に設定することが想定される。ただし、前方に建物が建築されたことによる眺望の変化等の各住戸の価値に影響を及ぼすような事後的な変化があったとしても、それによる議決権割合の見直しは原則として行わないものとする。

なお、このような価値割合による議決権割合を設定する場合には、分譲契約等によって定まる敷地等の共有持分についても、価値割合に連動させることが考えられる。

⑤総会は管理組合の最高の意思決定機関であることを踏まえると、代理人は、区分所有者としての組合員の意思が総会に適切には反映されるよう、区分所有者の立場から見て利害関係が一致すると考えられる者に限定することが望ましい。第5項は、この観点から、組合員が代理人によって議決権を行使する場合の代理人の範囲について規約に定めることとした場合の規定例である。また、総会の円滑な運営を図る観点から、代理人の欠格事由として暴力団員等を規約に定めておくことも考えられる。なお、成年後見人、財産管理人等の組合員の法定代理人については、法律上本人に代わって行為を行うことが予定されている者であり、当然に議決権の代理行使をする者の範囲に含まれる。

⑥書面による議決権の行使とは、総会には出席しないで、総会の開催前に各議案ごとの賛否を記載した書面(いわゆる「議決権行使書」)を総会の招集者に提出することである。他方、代理人による議決権の行使とは、代理権を証する書面(いわゆる「委任状」)によって、組合員本人から授権を受けた代理人が総会に出席して議決権を行使することである。

このように、議決権行使書と委任状は、いずれも組合員本人が総会に出席せずに議決権の行使をする方法であるが、議決権行使書による場合は組合員自らが主体的に賛否の意思決定をするのに対し、委任状による場合は賛否の意思決定を代理人に委ねるという点で性格が大きく異なるものである。そもそも総会が管理組合の最高の意思決定機関であることを考えると、組合員本人が自ら出席して、議場での説明や議論を踏まえて議案の賛否を直接意思表示することが望ましいのはもちろんである。しかし、やむを得ず総会に出席できない場合であっても、組合員の意思を総会に直接反映させる観点からは、議決権行使書によって組合員本人が自ら賛否の意思表示をすることが望ましく、そのためには、総会の招集の通知において議案の内容があらかじめなるべく明確に示されることが重要であることに留意が必要である。

理事会の代理出席(第53条関係)

▶理事会への理事の代理出席について、従来のコメントでは、「理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一親等の親族に限り、代理出席を認める旨を規約に定めることもできる。」とされていました。今回の改正では、理事会の議決有効性を巡るトラブル防止のため、「あらかじめ代理する者を定めておく、議決権行使書による表決を認める等が望ましい」旨の解説が追加されました。(第53条関係コメント)

【第53条第2項の新設追加】

次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。

【第53条第3項の新設追加】

前2項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない

(第53条関係コメント①~⑥の新設追加)

理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。

②したがって、理事の代理出席(議決権の代理行使を含む。以下同じ。)を、規約において認める旨の明文の規定がない場合に認めることは適当でない。

③「理事に事故があり、理事会に出席できない場合には、その配偶者又は一親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限り代理出席を認める」旨を定める規約の規定は有効であると解されるが、あくまで、やむを得ない場合の代理出席を認めるものであることに留意が必要である。この場合においても、あらかじめ、総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい。なお、外部専門家など当人の個人的資質や能力等に着目して選任されている理事については、代理出席を認めることは適当でない

④理事がやむを得ず欠席する場合には、代理出席によるのではなく、事前に議決権行使書又は意見を記載した書面を出せるようにすることが考えられる。これを認める場合には、理事会に出席できない理事が、あらかじめ通知された事項について、書面をもって表決することを認める旨を、規約の明文の規定で定めることが必要である。

理事会に出席できない理事について、インターネット技術によるテレビ会議等での理事会参加や議決権行使を認める旨を、規約において定めることも考えられる。

⑥第2項は、本来、①のとおり、理事会には理事本人が出席して相互に議論することが望ましいところ、例外的に、第54条第1項第五号に掲げる事項については、申請数が多いことが想定され、かつ、迅速な審査を要するものであることから、書面又は電磁的方法(電子メール等)による決議を可能とするものである。

管理費等の滞納に対する措置(第60条関係)

▶管理費等の徴収に関して、新たに「管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講じるものとする」との規定が追加されました。(第60条第3項)

また、管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について、段階的にまとめたフローチャート等が提示されました。(別添3)

【第60条第3項の新設追加】

管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。

(第60条関係コメント②、③、④、⑥の新設追加)

②徴収日を別に定めることとしているのは、管理業者や口座(金融機関)の変更等に伴う納付期日の変更に円滑に対応できるようにするためである。

③管理費等の確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項である。管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁等の弊害もあることから、滞納された管理費等の回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つであるといえる。管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャート及びその解説を別添3に掲げたので、実務の参考とされたい。

④滞納管理費等に係る遅延損害金の利率の水準については、管理費等は、マンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による滞納管理費等の回収は、専門的な知識・ノウハウを有し大数の法則が働く金融機関等の事業者による債権回収とは違い手間や時間コストなどの回収コストが膨大となり得ること等から、利息制限法や消費者契約法等における遅延損害金利率よりも高く設定することも考えられる。

⑥第2項では、遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することが「できる」と規定しているが、これらについては、請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられる。

マンション管理状況などの情報開示(第64条関係)

▶大規模修繕工事の実施状況や予定、修繕積立金の積み立て状況などの情報を開示する場合の条項が整備されました(第64条、別添4等)

【第64条第2項の新設追加】

理事長は、第32条第三号の長期修繕計画書、同条第五号の設計図書及び同条第六号の修繕等の履歴情報を保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

【第64条第3項の新設追加】

理事長は、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

【第64条関係コメント④、⑤、⑥の新設追加】

④ 第2項は、第32条で管理組合の業務として掲げられている各種書類等の管理について、第1項の帳票類と同様に、その保管及び閲覧に関する業務を理事長が行うことを明確にしたものである。なお、理事長は、理事長の責めに帰すべき事由により第1項の帳票類又は第2項に掲げる書類が適切に保管されなかったため、当該帳票類又は書類を再作成することを要した場合には、その費用を負担する等の責任を負うものである。

⑤ 第3項は、組合員又は利害関係人が、管理組合に対し、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項、第2項並びに第72条第2項及び第4項の閲覧ではなく、管理組合の財務・管理に関する情報のうち、自らが必要とする特定の情報のみを記入した書面の交付を求めることが行われている実態を踏まえ、これに対応する規定を定めるものである。書面交付の対象とする情報としては、大規模修繕工事等の実施状況、今後の実施予定、その裏付けとなる修繕積立金の積立ての状況(マンション全体の滞納の状況も含む)や、ペットの飼育制限、楽器使用制限、駐車場や駐輪場の空き状況等が考えられるが、その範囲については、交付の相手方に求める費用等とあわせ、細則で定めておくことが望ましい。別添4は、住戸の売却予定者(組合員)から依頼を受けた宅地建物取引業者が当面必要とすると考えられる情報を提供するための様式の一例に記載のある主な情報項目であり、上述の細則を定める場合の参考とされたい。

⑥ 第3項に規定する管理組合の財務・管理に関する情報については、これらの情報が外部に開示されることにより、優良な管理が行われているマンションほど市場での評価が高まることや、こうした評価を通じて管理の適正化が促されることが想定されることから、書面交付の対象者に住戸の購入予定者を含めて規定することも考えられる。一方で、開示には防犯上の懸念等もあることから、各マンションの個別の事情を踏まえて検討することが必要である。

※本ページは、国土交通省ホームページ「標準管理規約及び同コメント」を基に作成しております。
※5年ぶりに変わった「マンション標準管理規約」改正のポイント①~⑦で取り上げた項目以外にも、その他所要の改正、新設があります。

 

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5年ぶりに変わった「マンション標準管理規約」改正のポイント⑥~暴力団等の排除規定、災害時の管理組合の意思決定等~

まとめ

平成28年10月、政府・与党の税制調査会は、平成29年度税制改正で、タワーマンションなどの高層マンションにかかる固定資産税を見直すとの方針を発表しました。

タワーマンションは眺望の良い高層階ほど人気があり、取引価格が高いわりに税金が安く、富裕層の間では節税対策として購入している人もいるようです。「固定資産税は、低層階でも高層階でも同じ」は、確かに「不公平」ですね。

一方、税制改正とは関係ありませんが、平成28年の「マンション標準管理規約コメント」の改正では、新築物件における選択肢として、総会の議決権について、住戸の価値割合に連動した設定も考えられるとしています。

高層マンションの税制改正案や価値割合を基礎とした議決権割合の考え方も、「マンションを取り巻く情勢の変化を踏まえた内容」といえるでしょう。

これまで、5年ぶりに変わった「マンション標準管理規約」改正のポイント①~⑦をご紹介してきました。管理規約を改正する際の参考となれば幸いです。

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北林真一

あなぶきハウジングサービス 北林 真一(きたばやし しんいち)
大学卒業後、一貫して不動産業界に従事してきました。
皆さまの大事なお住まい(マンション)のことは私にお任せください。
【得意分野】・合意形成の進め方 ・大規模修繕工事
【モットー】謙虚であれ、誠実であれ
【特技】日本酒と音楽(邦楽除く)は少しだけ詳しいです。
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