こんにちは、仲井です。今回から、民法の「賃貸借」を学習します。民法の「賃貸借」では、「賃貸借の効力」が出題の中心です。今回は、「賃貸借の効力」の中の、「不動産賃貸借の対抗力」、「賃貸物の修繕」等のポイントを説明します。早速中身に入りましょう。
目次
- 不動産賃貸借の対抗力
- 賃貸物の修繕等
- 賃借人による費用の償還請求(必要費、有益費)
不動産賃貸借の対抗力
たとえば、甲が自己の土地(建物の建っていない駐車場や資材置場とします)を乙に賃貸していたが、甲がその土地を丙に売却した場面を考えてみましょう。
甲から丙に土地の所有者が変わったわけですが、丙としては、せっかく土地を買ったのだから、「乙に出ていってほしい」と考えるでしょう。しかし、乙だって、せっかく借りているのに、所有者が変わったからといって、簡単には出ていきたくないでしょう。
そこで、民法では、「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる」と規定しています。
すなわち、先の事例の乙が、賃借権の登記をしたときは、乙は、土地の買主丙に対して、自己の賃借権を主張することができます(逆に、賃借権の登記がなければ、乙は、賃借権を主張できません)。乙が、目に見える「登記」という形で自己の権利を守っている場合、丙は、乙に出ていってもらうことはできません。
賃貸物の修繕等
賃貸借は、「当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約ですが、ほかにどんな権利や義務があるでしょうか。
1 賃貸物の修繕
賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負います。
賃借人から「借りている家が壊れたから(漏水しているから)直してよ」と言われたら、賃貸人は、直さなければならないのです。賃貸人は、賃借人からしっかり賃料をもらっているのですから、その賃貸物を、賃料に見合う状態にして使わせなければならないのは当然ですね。
2 賃借人の意思に反する保存行為
このように、賃貸人には、賃貸物の修繕義務がありますが、賃貸人にとって、修繕は、権利の側面もあります。すなわち、賃貸物は、賃貸人の所有物なのですから、壊れたりしたら、賃貸人もきれいに直したいのです。もし、賃借人が、家が壊れたまま(漏水したまま)放置していたら、賃貸人は、「私の所有物なのだから、直させろ」と言えますし、賃借人は、それを受け入れなければなりません。
そこで、賃貸人が、修繕等の賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができません。
そして、賃貸人が「賃借人の意思に反して」修繕等の保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができます。
ここでのポイントは、賃借人が「いやだ」と言っても、賃貸人は修繕等ができるということです。ですから、「賃貸人は、賃借人の意思に反して、保存行為をすることはできない」と出題されたら、それは「誤り」ということになります。
賃借人による費用の償還請求
さて、前述のように、賃貸人には、賃貸物の修繕義務があるので、賃借人は、借りている物が壊れる等した場合、賃貸人に対して、「直せ」と主張することができますが、賃借人は、自分で費用を出して直す等したうえで、賃貸人にその費用を請求することも可能です。ただし、支出した費用の種類によって、請求できる時期等が異なってきます。
1 「必要費」の場合
まず、賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する「必要費」(たとえば、漏水の修理費等のように、目的物の使用等に必要な費用)を支出したときは、賃貸人に対し、「直ちに」その償還を請求することができます。
本来賃貸人が直さなければならないところを賃借人が費用を立替えして直しているのですから、賃借人は、支出した費用をすぐに請求することができるのです。
2 「有益費」の場合
これに対して、賃借人が賃借物について「有益費」を支出したときは、賃貸人は、「賃貸借の終了の時に」、一定の条件のもと、その償還をしなければなりません。
「有益費」とは、たとえば、壁紙や照明器具をより良いものに替える、あるいは、和式トイレを洋式にする場合等のように、目的物の価値を増加する費用のことです。「マイナスをゼロに戻す」というイメージの必要費と違い、有益費は、必要不可欠性があるわけではありません。「ゼロをプラスにする」というイメージでしょうか。「改良費用」と言い換えてもいいかもしれません。
ここでのポイントは、「賃貸借の終了の時に」という部分です。
有益費の場合は、支出した後、しばらくうれしいのは実際に借りている賃借人です。ですので、借りている間は、賃借人の負担と考えます。そして、賃貸借が終了して賃借物を返すときに、今度は賃貸人が「おぉ、きれいになったじゃないか!」と喜ぶのです。もちろん、これは賃借人のお陰ですから、賃借人は、この段階で、賃貸人に対して「このきれいになって価値が上がった分か、あるいは、私が立て替えた分を請求しますよ」と言うことができるのです。
なお、せっかく壁紙をより良いものに張り替えても、賃貸借が終了して借りた物を返す時に、それが剥がれたりしていては意味がありません。当然ながら、賃借人は、賃借物を返す時に、増加した価値がまだ残っているという条件で、費用の償還請求をすることができるのです。
以上を踏まえ、有益費について、より正確に言い直すと、「賃借人が賃借物について有益費を支出した場合は、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、その価格の増加が現存するときに限り、賃貸人の選択に従い、その支出した金額または増価額を償還させることができる」となります。
3 まとめ
賃借人による費用の償還請求については、「必要費」は「直ちに」、「有益費」は「賃貸借終了時に」という対比をしっかりと押さえ、「その価格の増加が現存するときに限り」「賃貸人の選択に従い」というところにも注意しましょう。
たとえば、必要費の償還請求につき、「賃貸借終了後に限る」とする記述は誤りですし、有益費の償還請求について、「価格の増加が現存していなくても請求できる」とする記述は誤りです。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
最新記事 by 仲井悟史 (すべて見る)
- 宅建合格講座!宅建業法|「手付金等の保全措置」を解くときのポイント - 2020年8月28日
- マンションで居住者イベントを実施する3つのメリット - 2019年4月6日
- マンション入居者イベントのオススメ企画|初心者向け - 2019年3月27日