目次
- 住宅宿泊事業法の施行日が決定
- 管理組合はどのような対応が必要か
- 区分所有者の意思決定を左右する二つの価値観
- 民泊を禁止とするか認めるかの決議
- まとめ
住宅宿泊事業法の施行日が決定
平成29年10月24日の「住宅宿泊事業法の施行期日を定める政令」及び「住宅宿泊事業法施行令」の閣議決定により、「住宅宿泊事業法」(以下「民泊新法」)が平成30年6月15日に施行されることになりました。
民泊新法においては分譲マンションも住宅宿泊事業(以下「民泊」)の対象となっているため、法定要件を満たし都道府県知事等へ届け出ることにより、分譲マンションで民泊を営むことは基本的には可能です。
しかし、マンションの立地・構造・用途・区分所有者の考え方など、それぞれのマンションにおいての事情が異なることから、専有部分での民泊を禁止とするか認めるかについては、マンションごとに管理組合総会等の決議で決めておく必要があります。
管理組合はどのような対応が必要か
住居型マンションの一般的な管理規約では、専有部分の用途を「専ら住宅として利用するものとし、他の用途に供してはならない」との規定があるため、そもそも管理規約で専有部分を民泊として利用することは禁止されていることが前提であり、認めようとする場合だけ、新たに管理組合総会等で決議すれば問題ないと考えている人もいるかもしれませんが、国土交通省の公表資料を見ますと、当該規定があっても、それだけでは、民泊を禁止しているとは解されないため、民泊を禁止とする場合にも、新たに管理規約等で明確に規定する必要があるとの記述がありますので、平成30年6月の民泊新法の施行に向けて、管理組合総会等で禁止か認めるかを決議しておく必要があるようです。
区分所有者の意思決定を左右する二つの価値観
上記により、改めて管理組合として民泊を禁止するか認めるかを決定することとなりますが、マンション居住者の多くは自身のマンションで民泊が行なわれることによる住環境の悪化を懸念し、専有部分での民泊は全面禁止とする方針のマンションが多くなると考えられます。
しかし、分譲マンションは住まいであることと同時に資産(不動産)という側面も持っているため、資産運用を念頭に民泊に賛成の区分所有者もいることが考えられます。
分譲マンションの価値には「居住価値」と「資産価値」の2つがあると言われています。
「居住価値」とは、実際に生活する住まいとしての安全性や快適性など住環境に対する満足感にもとづく価値であり、「資産価値」とは分譲マンションそのものの財産的(金銭的)な価値を言います。財産価値を簡単に言いますと売却する際に売れる金額や貸したときに得られる賃料収入など、不動産の収益の大小にもとづく価値です。
マンションの所有者は「居住価値」と「資産価値」何れの価値も大切だと考えていると思いますが、実際に住まいとして生活をしている人(居住者)と、賃貸している、セカンドハウスで利用している、空家にしている等、自身の住まいとして利用していない人(非居住者)とでは、この価値に関しての比重に少し違いがあると感じています。
居住者は、マンションを住まいとして捉え、住環境を重要視する人が多いと考えられますが、一方の非居住者は、民泊による住環境の悪化が資産価値低下に繋がるという不安感を持つ人もいると思いますが、それ以上に、所有するマンションから少しでも多くの収益を得たいと思う人も存在すると考えられます。特に、営利企業が投資目的のために所有している場合は、民泊を収益拡大のチャンスととらえていることもあると考えられます。
【居 住 者】 = 居住価値 > 資産価値 住環境 > 収益 ・・・ 民泊【禁止】
【非居住者】 = 居住価値 < 資産価値 住環境 < 収益 ・・・ 民泊【容認】
民泊を禁止とするか認めるかの決議
国土交通省が公表している内容では、管理規約において民泊の可否を明確に決定することが望ましいとの見解がなされています。
管理規約の変更は、区分所有法により総会の特別決議(区分所有者数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決議)案件あるため、決議としては少々難易度の高い案件です。
マンションを住まいとして利用している人(居住者)が多数を占めるマンションでは、民泊禁止を望む意見が多数であると考えられますので、総会の特別決議により管理規約の変更(専有部分での民泊を全面禁止とする)を決定することはそれほど難しくないと思われますが、資産価値を重視する非居住者の割合が高いマンションでは、民泊容認を望む意見もあると思いますので、特別決議の決議要件を満たせず、結果的に管理規約の変更ができないケースも考えられます。全面禁止が否決された場合においては、民泊を容認していく方向で方針転換が必要となるかも知れません。
なお、平成29年10月24日の国土交通省の公表資料では「民泊の可否について、諸事情により管理規約での制定ができない場合においては、管理組合の総会・理事会決議を含め、管理組合としての方針が決定されているかどうかについて届出により確認することとし、禁止する方針が決定されたマンションにおける事業の実施を防止する」との記述があり、詳細については省令で規定され次第公表するとの記述もありますので、今後、国土交通省より新たな方針等が発表される可能性もありますので留意が必要です。
まとめ
専有部分の民泊の可否について協議をすすめる際には、上記のように、非居住者の意向が決議を左右することもありますので、マンションによっては、事前のアンケート調査などで区分所有者の意向を把握したうえで協議をすすめる必要もあると思いますので、是非ご留意いただければと思います。
次回は、分譲マンションの専有部分での民泊を認める場合には、どのような問題や課題があり、それに対して管理組合としてどう対応すべきかについて書きたいと思います。
【マンションでの民泊対応どうする? ②】
田中一直
香川県出身。あなぶきグループに平成6年に入社。主に新築マンションの販売、中古マンション・戸建などの仲介業務を経て、その後、マンション管理業務に約20年従事しています。マンション管理組合の運営補助だけでなく、お客さまのマンション生活が安心で快適であるため、常にプラスアルファの提案活動を心がけています。
資格:マンション管理士・マンション維持修繕技術者
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