先日、熊本の友人とメールのやり取りの中で、「地震の影響で断水となり、自衛隊による給水活動や、仮設風呂を用意していただき、水のありがたさを痛感した」と言っていました。
近所で水道本管工事をしているとか、マンションの貯水槽清掃時の断水以外は、水道の蛇口をひねると水が出ます。何気ないことですが、水が出るということは、ありがたいことです。
今回は、マンションの給水設備全般について考えてみましょう。
目次
- 直結式給水方式
- 受水槽式給水方式
- その他給水方式
- まとめ
マンションにおける給水設備の最も大切な役割は、「必要な水量」の「安全で良質な水」を、「適正な圧力」で各住戸の末端まで供給することです。従来、給水管の工事といえば、赤水防止の給水管本体ばかりに目を向けたものが多く、工法も管の更新(取り替え)か更生(ライニング)の二者が大半でした。
数年前より、給水機器の開発や条例改正などにより、給水設備(システム)全体に目を向けることが多くなってきています。
一口にマンションの給水設備といっても、建物の規模・高さなどによってその給水方式は分かれます。マンションの給水方式には、水道の配水管内の水圧を利用して給水する「直結式給水」と配水管から分岐し、いったん受水槽に受けてから給水する「受水槽式給水」があります。
では、水道本管からマンションの各住戸への給水は、どのような方式があるのか、具体的に見てみましょう。
直結式給水方式
直結式給水方式には、①水道直結方式と②直結増圧給水方式があります。
衛生的な水を供給するためには、「水を貯めない」「短時間・短距離で供給」することが必要です。その点で、受水槽を用いない直結式給水は衛生面で優位に立ちます。
水道直結方式
道路内の水道本管からの給水圧力により直接各戸に給水する方式です。適用建物としては、マンションでも低層で小規模なものに限られます。
メリット
- 受水槽、高置水槽等が不要で清掃、点検および維持管理費用がかからない
- スペースを有効利用できる
- 直接的に新鮮な水が供給される
- 停電時でも断水しない
デメリット
- 高台や圧力が低いところや夏季の使用水量が多い時期は水圧低下が起こる場合がある
- 水道本管の断水時には供給できない
直結増圧給水方式
水道本管から分岐して引き込んだ水を、増圧ポンプを経て直接各住戸に給水する方式です。つまり、水道管の水圧に加圧し、水道本管から直接供給する方式です。この方式は、中規模の中高層マンションが対象となりますが、増圧給水ポンプを直列に設置して、より高層階に給水するものや増圧給水ポンプを並列に設置して、より大規模なマンションに供給するものもあります。
できるだけ水質を落とさずに各戸へ供給できる給水方式として、近年脚光を浴びているのが直結増圧給水方式です。
高置水槽方式から直結増圧給水方式に切り替える場合、完全な増圧直結とする際に義務付けられる耐圧試験があります。圧力がかなり高く、老朽化した既存配管がそれに耐えられない例もあります。また、給水本管から直接大量の上水を引き込むため、多くの地方自治体(水道事業者)では周辺の一般住戸への影響を配慮して、引き込み径の上限を設けており、中規模マンションには、未だ採用が難しい地域もあります。
メリット
- 受水槽、高置水槽等が不要で清掃、点検および維持管理費用がかからない
- スペースを有効利用できる
- 直接的に新鮮な水が供給される
デメリット
- 増圧給水ポンプの清掃、点検および維持管理費用が必要
- 停電時には上層階で断水が生じる
水道直結増圧方式で停電が生じた場合、増圧ポンプは停止しますが、直結式であるため、水道本管の給水圧力は生きています。高いところまで水をおしあげることはできませんが、下層階では引き続き給水が可能です。
受水槽式給水方式
受水槽式給水方式には、①高置水槽方式、②ポンプ直送方式および③圧力タンク方式があります。
停電が生じた場合、高置水槽方式では、揚水ポンプは停止するものの、高置水槽に残っていた水は重力で給水できます。ポンプ直送方式と圧力タンク方式では、停電でポンプ等が止まり、受水槽から水を引き出せなくなるため、給水は不可能となります
高置水槽方式(重力方式)
水道本管から分岐して引き込んだ水を一度受水槽に貯水した後、揚水ポンプでマンションの屋上等に設置された高置水槽に揚水し、水の重力により各階の住戸に給水する方式です。高経年マンションに多く用いられた方式です。
メリット
- 停電になった場合でも高置水槽に貯められた水を利用することができる
- 断水時や災害時にも水を確保できるなどの利点がある
デメリット
- 受水槽、高置水槽等の清掃、点検および維持管理が必要
- 受水槽、高置水槽の設置スペースが必要
ポンプ直送方式(タンクレスブースター方式/加圧給水方式)
水道本管から分岐して引き込んだ水を一度受水槽に貯水するまでは同様ですが、その後、加圧給水ポンプで圧送した水を各住戸に給水する方式です。
メリット
- 災害時等に断水になった場合でも受水槽に貯められた水を利用できる
- 高置水槽が不要であり、美観上よく、積載荷重の軽減が図れる
デメリット
- 受水槽、高置水槽等の清掃、点検および維持管理が必要
- 停電時にはポンプ等が停止するため給水できない
圧力タンク方式
水道本管から分岐して引き込んだ水を、いったん受水槽へ貯水した後、加圧(給水)ポンプで圧力タンクに給水し、圧力タンク内の空気を圧縮・加圧して各住戸に給水する方式です。
水が使われてタンク内の圧力が低下したことを圧力スイッチが検知すると、加圧ポンプが稼働し、圧力タンクの必要給水圧力を保持する仕組みになっています。この方式は、高置水槽が不要であるため、主に小規模マンションに採用されている例が多いです。
その他給水方式
水道直結増圧方式 <高置水槽方式>
水道本管から分岐して引き込んだ水を、増圧給水ポンプを経て高置水槽まで揚水し、高置水槽以降は重力により各住戸に給水する方式です。
受水槽はないが、高置水槽は存在するという方式で、水道本管の断水時には高置水槽分だけは給水が可能です。
高経年マンションでは、高置水槽給水方式が一般的ですが、受水槽、高置水槽の劣化を契機に、水道本管直結給水方式や直結増圧給水方式に変更することが考えられます。
まとめ
日常生活に欠かせない水。水道の蛇口から出る水は、マンション内のどのルートで、またはどのような給水方式で蛇口まで来ているのでしょうか?
居住者の方にお聞きしますと、意外と知らない方が多いようです。ましてや、給水方式を変更している場合、総会で説明を受けていないと理解できないかも知れません。
今回は、マンションに供給される水道水の給水設備全般についてまとめました。お住いのマンションの給水方式を理解するうえで、お役に立てれば幸いです。
北林真一
大学卒業後、一貫して不動産業界に従事してきました。
皆さまの大事なお住まい(マンション)のことは私にお任せください。
【得意分野】・合意形成の進め方 ・大規模修繕工事
【モットー】謙虚であれ、誠実であれ
【特技】日本酒と音楽(邦楽除く)は少しだけ詳しいです。
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