退去後の原状回復工事に関する5つのポイント!

藤原一貴

あなぶきハウジングサービスの藤原です。
賃貸業界の繁忙期ももう終わりに近づいてきました。
新しくご入居される方が多い時期ですが、その分ご退去も多くなる時期です。
入居者様がご退去される際にトラブルになりやすいのが原状回復の負担割合についてです。
どちらがいくら負担するか。。
その際に一つの指針になるのが国土交通省より出されている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
今回は、こちらの内容をポイントでご紹介したいと思います。

ガイドラインとは?

賃貸物件を退去する際に、原状回復に関する費用負担をめぐってトラブルが多くなっていることを背景に、国土交通省が策定したものが「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
もともと退去時の原状回復の範囲や費用負担の線引きについては明確な基準がなく、曖昧なことが多かったこと。また、昔は弱い立場だった借主を保護することが重視されるようになったこと。
これらの要因により敷金の返済や原状回復費用の負担内訳に関するトラブルが増加したため、国土交通省が主に裁判での判例・事例をもとに出したルールブックという性格のものになります。
法的な拘束力があるわけではありませんが、昨今の敷金精算の際にはこのガイドラインに基づきながら精算業務を行うことがほとんどになってきています。

原状回復とは?

ガイドラインによると、
『原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。
①自然損耗・経年劣化
建物や付帯設備は年数が経過すれば何もせずとも相応に劣化していきます。そのような防ぎようのない劣化による修繕や交換についてはオーナー様のご負担になります。
また、通常使用による汚れや傷みといったものの修繕・交換についてもオーナー様のご負担になります。生活をする上で避けられないものの汚れがこれに当たります。
具体的な例としては、
■壁紙や建具、畳等の日焼けや家電焼け(冷蔵庫裏の黒い汚れ、家具を置いていた跡、テレビの焼け等)
■押しピン跡(通常使用の範囲と考えられるもの)
■床材についた家具の設置跡(特に畳やクッションフロア等の柔らかい材質の場合は跡が付きやすい)
■網戸のたわみによる張替
■普通に使っていて故障した設備の修理・交換(ドアの建付けや水栓の水漏れ、換気扇の異音、エアコンの故障等がよく見られます)
等が挙げられます。
②借主の故意過失(善管注意義務違反)
前項の「原状回復とは?」の中にあるように、借主の故意や過失等の善管注意義務違反が認められるものや普通に使っていれば発生しないであろう破損・汚損について
は、借主に費用を請求できます。
具体的な例としては、
■喫煙による壁紙や建具のヤニ汚れ、臭い(壁紙の償却年数は加味しなければなりません)
■ペット飼育による傷・汚れ
■壁紙や建具への落書き、大きな破れ
■釘穴、ネジ穴、壁ボードの破損等、ボードの下地補修まで必要なもの
■飲み物等をこぼしたことによるシミやカビ
■家具の移動や引っ越し作業による傷や汚れ
■掃除不足による設備の故障(油汚れを放置したことによる換気扇の故障や掃除をしなかったことによる水垢、カビ等)
等が挙げられます。
※善管注意義務違反・・・借主は善良なる管理者としての注意を払って物件を使用・管理しなければならない、という民法の規定です。賃借人の管理が悪いため被害が発生したり拡大したりしたような場合がこれに当たります。例えば結露を放置したことによってカビ等の被害を拡大させたり、水漏れが起こっているのを放置したことによって床が腐ったりという場合などは、善管注意義務に違反したとして、借り主の方に費用負担を請求できるケースもあります。
③償却年数
前項②のような借主の故意・過失が認められた場合は原状回復費用を借主に請求できます。ただし、この場合でも注意が必要なのが「償却年数」を加味して費用負担を計算しなければならないということです。
ガイドラインによると、借主の故意・過失による費用請求の際は、税務申告の際の「減価償却」と同様の考え方で、年数が経過するとともにその価値が下がっていくため、故意過失部分の費用を満額請求するのではなく、残存価値に応じた負担割合分の額しか借主に請求ができない、ということです。
新品時を100%とし、耐用年数によって償却年数を計算し、最終的な残存価値は1円になります。
つまり、タバコのヤニ汚れで壁紙の張替が必要な場合でも、前回張替から6年経過していれば、残存価値は1円となるので借主への張替費用の請求は1円しかできない、ということです。
以下、具体的な耐用年数について挙げてみます。
■壁紙、クッションフロア、カーペット・・・6年
■畳表替、障子紙、襖紙・・・消耗品とみなすので経過年数は考慮しない
■フローリング・・・経過年数を考慮しない。借主の故意・過失による部分張替や補修
などは基本的に借主に請求できます。
※フローリング全体張り替えの場合・・・建物の耐用年数に基づき残存価値を計算し、負担割合を決めます。
■設備機器・・・ものによって耐用年数が異なります。
※流し台・・・5年
※冷暖房器具(エアコン等)、インターフォン・・・6年
※金属製以外の家具(タンスや本棚等)・・・8年
※便器、洗面台等の給排水、衛生設備、金属製の器具・備品・・・15年
※建物の耐用年数が適用されるもの・・・建物と一体になっているようなものは建物の耐用年数を用います(浴槽、下駄箱等)
■建物の耐用年数は構造によって異なります
※木造・・・22年
※鉄骨造・・・34年(軽量鉄骨造の場合は27年)
※鉄筋コンクリート造・・・47年
④バリューアップ工事
入居者が退去されたタイミングで、次回募集の為に原状回復以上のリフォームをしようかな、と考えられるオーナー様も少なくありません。
例えば、フローリングのミラーコーティングや大きな容量のエアコンへの交換、デザインクロスへの張替等があります。
このようなグレードアップに要する費用はオーナー様の負担になります。
借主への費用請求が認められる壁紙の張替の場合で、せっかくなのでデザインクロスに張替ようとした場合、原状と同様の壁紙の張り替え費用分のみ借主へ請求し、差額はオーナー様が負担するようになります。

 特約条項の効力

契約条件については基本的には契約の当事者間で自由に設定できます。ですので当事者間の間で合意した特約は原則有効ですので、ガイドラインの指針とは異なる借主の費用負担も認められることが多いです。契約書に両者の捺印がある=契約時に合意したと認められますので、契約書に基づきながら退去後の精算をすることができます。
しかしながら、以下の3つの要件を満たしていないような特約条項は、裁判になった際に無効となり効力が無くなる可能性があります。
1、暴利的でない客観的・合理的な理由があること
2、借主が特約による原状回復義務を負うことを認識していること
3、借主が義務負担の意思表示をしていること
それぞれの特約が有効か無効かは、物件の状況や取引の経緯、目的、その他の状況を総合的に考慮した上で判断されます。
トラブルなく精算ができれば良いのですが、双方の主張が食い違う場合もよくあります。その際は、お互いの言い分をよく理解した上で、話し合いによる解決を目指しましょう。
もし話し合いでも解決できない場合は、公的な第三者の力を借りるようになります。具体的には調停や訴訟に移行していくようになります。(退去精算の解決は少額訴訟を利用することが多いと思います)

まとめ

原状回復については、今後の民法改正で【経年劣化等は貸主の負担である】ことが、明記されることが決定しています。
物件の使用状態や契約内容、地域慣習等により、ケースバイケースで負担按分について判断していくこともあります。
できるだけスムーズにお部屋のできるだけスムーズにお部屋の原状回復を行い、早期の募集につなげれるように、そして空室期間をなるべく短くできるようにしたいですね。

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藤原一貴

あなぶきハウジングサービス 藤原 一貴(ふじわら かずき)

愛媛県出身です。2009年あなぶきハウジングサービスに新卒で入社しました。賃貸仲介を3年、プロパティマネジメント業務を6年経験しております。現在は、高知で賃貸マンションのオーナー様の資産価値向上に向けて取り組んでおります。お酒が得意ではないですが、高知で働いているのでお酒に強くなれるように頑張っております。

保有資格:宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
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