定期借家契約 ~賃貸人&賃借人のメリット・注意点について解説~

皆さまこんにちは!2022年に入り、春に向けてお部屋探しをされる方が徐々に増えてきました。
さて、突然ですが「定期借家(ていきしゃっか)契約」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?一般的な賃貸借契約とは異なる点も多いため、知らない方も多いかもしれません。
本日は「定期借家契約」について分かりやすく解説するとともに、賃貸人・賃借人それぞれのメリットや注意点についてまとめてみました。皆さまのご参考になりましたら幸いです。

定期借家契約とは

「定期借家契約」とは、物件に住める期間が限定されている賃貸借契約です。例えば「契約開始日から〇年間のみ」という場合や「20××年〇月まで」といった形で、その物件に住むことができる期限があらかじめ決まっています。その期限までに原則退去しなければならず、期限が到来すると原則契約は終了します。(ただし、期限を超えて住み続けたい場合、賃貸人の承諾を得られれば再契約ができる場合もあります。)

 

普通賃貸借契約との3つの違い

①契約終了の期間の定めがある

「普通賃貸借契約」は、賃借人が解約の意思を示さない限りは物件に住み続けることができます。先ほどご説明した通り「定期借家契約」の場合は物件に住める期間が限定されています。

 

②1年未満の契約でも有効

「普通賃貸借契約」の場合、借地借家法の規定に基づき、1年未満の賃貸借契約期間を定めることができません。(期間の定めがない賃貸借契約とみなされます。)これに対して「定期借家契約」では例外として1年未満の契約期間でも有効に定めることが認められています。(借地借家法第38条1項)

借地借家法 第29条(建物賃貸借の期間)

期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。

出典:借地借家法

 

③書面による契約が必須

「普通賃貸借契約」の場合でも、契約書など書面で行うことが一般的ではありますが、実は口頭でも有効に成立します。一方「定期借家契約」の場合は、「契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借契約が終了すること」を明示した書面による説明・書面による契約が義務付けられています。

借地借家法 第38条(定期建物賃貸借)

期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。

2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。

出典:借地借家法

 

定期借家契約のメリット

一般的なルールと異なる部分も多い「定期借家契約」ですが、賃貸人・賃借人にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

賃貸人の場合

一番大きなメリットは“希望の時期に賃借人に退去してもらえる”ことです。
「普通賃貸借契約」の場合よほどの理由が無い限り、賃借人に対して賃貸人側から退去をお願いすることはできません。そのため、次のようなオーナー様には「定期借家契約」によるメリットがあります。

・急な転勤で県外に転居するが、3~4年で戻る予定なので、その間だけ賃貸で貸し出したい。
・築年数経過に伴い物件が老朽化し、取り壊しも検討しているため期限を決めておきたい。
・土地の再開発などにより、マンションの撤去・立ち退きをしなければならない可能性がある。

また「定期借家契約」の場合、更新はありませんが、賃借人から再契約希望のお申し出があった場合、再契約も可能です。再契約する際に、契約期間も改めて定めることができます。

 

賃借人の場合

物件に住める期間が決められていると、物件探しをされる多くの方にとってはネガティブ材料になると思います・・。しかし、その分募集家賃が相場より安いなど、賃貸条件が緩和されているケースが多いです。
次のような方には「定期借家契約」によるメリットがあります。

・お家をリフォームする間の短期間、お得に借りられる賃貸物件を探している。
・新築物件を購入したが、引渡しまで時間があるので、その期間だけ賃貸を借りたい。

賃借人側にとっても、あらかじめ住む期間が限定されている方であれば、お得にお部屋が借りられる点でメリットはあります。

 

定期借家契約の注意点

「定期借家契約」をする際にはメリットだけではなく注意点もあります。賃貸人・賃借人それぞれの立場から解説します。

賃貸人の場合

募集条件を緩和する必要がある(*義務ではない)

定期借家契約の場合、近隣相場に合わせた募集家賃設定にしてしまうと、客付けが厳しいことが予想されます。客付け(賃借人に入居してもらう)を前提とした場合、ある程度お得感のある家賃設定にする必要があるでしょう。

必ずしも客付けができるとは限らない

契約期間を1年未満などかなり短く設定した場合、物件探しをされる方もかなり限定されます。最悪客付けが難しいケースもありますので、理解しておきましょう。

半年~1年前までに契約終了の通知が必要

さて、“賃借人の入居が決まり、あとは期間満了を待つのみ!”と思われるかもしれませんがここで注意が必要です。「定期借家契約」の期間を1年以上に定めた場合、期間満了の半年~1年前までに、再度賃借人に対して、契約終了の通知をしなければならないのです。万が一その通知を忘れてしまっていた場合、契約終了を賃借人に対抗できません。不動産会社に管理を任せている場合でも、念のため注意しておきましょう。

借地借家法 第38条(定期建物賃貸借)

4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。

出典:借地借家法

賃借人の注意点

再契約できるかどうか確認しておく

「定期借家契約」の場合、賃借人から再契約希望のお申し出があった場合、再契約も可能とお伝えしてきました。ただし、賃貸人の事情によっては、再契約が難しいケースもあります。再契約ができるかどうか、契約時はもちろん、契約期間終了が近づいたときに、改めて確認しておきましょう。再契約できることを前提に考えていた場合、トラブルに発展する恐れもあります。

 

更新はできない

「定期借家契約」に更新はありません。賃貸人の承諾を得て住み続ける場合、再契約のお手続きが必要となります。契約書の締結はもちろん、原則新規の契約時と同じ費用がかかることになります。(ただし、実際は追加で敷金の預入れや礼金の受領はされない場合も多く、諸条件は賃貸人と相談の上、決める形になります。)

 

原則中途解約できない

「定期借家契約」の場合、原則として賃貸人・賃借人ともに中途解約はできません。
ただし、居住用の賃貸物件の場合で、賃借人にやむを得ない事情がある場合は、中途解約ができる場合があります。(定期借家法 第38条5項参照)また、契約書内に別途特約事項などがある場合はそちらの規定を優先して適用されます。退去時のトラブルを避けるためにも、中途解約の条件について事前に確認した上で契約するようにしましょう。

 

借地借家法 第38条(定期建物賃貸借)

5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。

出典:借地借家法

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?普通賃貸借契約と比べると定期借家契約には、メリットだけではなく注意点もあります。賃貸人・賃借人ともに、事前にトラブルを防ぐために気を付けたいポイントがあったと思います。これからマンションを定期借家契約として貸出を検討されている方、今後借りることを検討される方のご参考になりましたら幸いです。

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安永菜美

安永 菜美(やすなが なみ)
2014年あなぶきハウジングサービスに入社。
入社後6年間、住戸やテナント等の不動産仲介業務を経験。現在は賃貸物件の管理業務に携わっています。オーナー様へのご提案や、ご入居者様のお困りごと対応など、日々勉強しながら励んでおります。
私自身まだまだ未熟な点が多いですが、今までの経験の中で学んだことを皆さまにお伝えできればと思います。

保有資格:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士・相続支援コンサルタント
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