前回は住宅宿泊事業(以下「民泊」)について、住宅宿泊事業法の内容と管理組合での可否を協議する際に留意することを書きましたが、今回は、民泊を認める場合の問題や課題と、それに対して管理組合としてどう対応すべきかについて書きたいと思いますのでよろしくお願いします。なお、分譲マンションでの民泊に関しては、国や地方自治体の方針等が、まだ固まっていないこともありますので、現時点での情報をもとに書いておりますのでご了承ください。
前回ブログ「マンションの民泊どうする?①」
https://anabuki-m.jp/information/director/20620/
目次
- 法令上の問題
- 居住者の住環境に対する問題
- 民泊を認める場合の対応策
法令上の問題
分譲マンション(ここでは「住居専用の分譲マンション」を前提とします)は、そもそも、住宅として居住することを目的として建築されているため、不特定多数の人が頻繁に出入りすることを考慮して建てられたものではありません。
すべての建物を建築する際には、様々な法令(建築基準法・消防法など)の基準を満たすことが必要であり、分譲マンションについては、共同住宅という用途のもと、法令の基準を満たして建築されています。
従って、共同住宅の一部に「宿泊施設」を含む建物となると、複合用途の建物となり、用途が変更するため適合する法令の基準が変わってくるものがあります。その法令の中で特に大きく影響するものとして「消防法」が考えられます。消防法において、防火対象物はその用途により、次の2つに区分されています。
① 特定防火対象物・・・・旅館、ホテル、百貨店、映画館など(不特定多数の人が利用するため高度な防火機能等が必要)
② 非特定防火対象物・・・共同住宅(マンション)、学校など(利用者はほぼ特定されるため一般的な防火機能等でOK)
①②を比較しますと、より厳格な規制が適用されるのは①の特定防火対象物です。
分譲マンションは、通常の住居としての使用であれば②の非特定防火対象物に区分されますが、マンション内の一部が民泊施設として利用されると①の特定防火対象物に区分されることとなります。
特定防火対象物に区分されることで、消防設備の新規設置や既存設備の改修(民泊に提供される専有部分と共用部分の両方)工事やマンション全体の防火管理体制(防火管理者の選任・訓練実施)を見直す必要が生じます。分譲マンションで民泊を認める場合には、専有部分(住戸部分)内の問題に限らず、マンション全体(管理組合)としての対応が必要となることが考えられます。
※消防設備や防火管理体制の変更については、マンションの規模・既存設備の状況・民泊に供される住戸割合等で変わってきますので所轄の消防署等へ詳細確認が必要です。
上記の消防法に関しては、法令上対応が必要となるものの一例ですが、この他にも、他の法律や各都道府県条令等で対応が必要となることもあると思います。
当然ですが、上記のような、共用部分や管理組合運営に関して変更が生じる場合のコスト(設備設置の費用・メンテナンス費用・防火管理体制に係る費用等)は管理組合費用で賄うこととなります。
居住者の住環境に対する問題
次に、法令等の規制以外で考えられる課題として、マンション居住者の住環境悪化の問題があります。
不特定多数の人が出入りすることにより生じる問題としては、以下の2つが考えられます。
① 美観・衛生面の悪化対策
【対策】共用部分の清掃仕様の見直し(頻度・場所・方法等)、ゴミ対策(不法投棄・分別)
② セキュリティ対策
【対策】 管理員常駐時間の変更、オートロックシステム変更(電子錠への変更、共用キーの変更など)、犯罪防止(防犯カメラ増設など)
民泊を認める住戸(以下「民泊住戸」)以外の居住者の住環境悪化を防止するためには、マンション(管理組合)のルールや規定の遵守を宿泊者に課すことは必ず必要ですが、それ以上に、より確実に対策を講じるためには、それぞれの問題を防ぐために、上記のような対策を講じることが必要だと思います。
民泊を認める場合の対応策
上記の「法令上の問題」「居住者の住環境に対する問題」をクリアして、民泊を認める場合は、マンション管理コストが増えることは不可避であると考えられます。
この民泊に関連して必要となる費用を、マンション区分所有者全体で負担することは、民泊住戸以外の区分所有者の同意を得ることは難しいと思いますので、民泊を認める場合には、受益者負担の観点を念頭にルールを策定することが必要であると感じます。
以下に分譲マンションで民泊を認める際に、管理組合としてルール化する具体案を列記しますので、ルール策定の参考ししていただければと思います。
① 民泊住戸は管理組合への登録制とする。
② 民泊住戸負担金を設定し、民泊利用を登録した住戸の区分所有者より徴収する。
③ 民泊住戸には24時間365日対応できる窓口を設けさせる。(委託する住宅宿泊事業者への義務付け)
④ 宿泊者が起こした事故等(漏水・器物破損等)が補償される損害保険等の加入義務付け。
⑤ 宿泊者のマンション内での行為については、区分所有者との連帯責任とする。
⑥ マンションでのルール遵守については、区分所有者がその責任を負う。
この他にも、外国語による掲示への変更・民泊向けへの案内文作成など細かいものが必要となってきますが、大枠としては、民泊住戸以外の居住者が民泊容認の影響を可能な限り受けない対策を講じることが、課題解決のために必要なことだと感じます。
また、民泊に関して新しい情報等がありましたら、随時、ブログを書きたいと思いますのでよろしくお願いします。
田中一直
香川県出身。あなぶきグループに平成6年に入社。主に新築マンションの販売、中古マンション・戸建などの仲介業務を経て、その後、マンション管理業務に約20年従事しています。マンション管理組合の運営補助だけでなく、お客さまのマンション生活が安心で快適であるため、常にプラスアルファの提案活動を心がけています。
資格:マンション管理士・マンション維持修繕技術者
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