皆さんこんにちは、仲井です。今回も「物権変動」を学習します。前半は、前回の続きで、「登記がなくても対抗できる場合」を説明します。後半は、不動産の二重譲渡に関連して、「取消し後・解除後の第三者等」を説明します。では、早速、中身に入っていきましょう。
- 登記がなくても対抗できる場合(背信的悪意者、無権利者等)
- 取消し後・解除後・時効完成後の第三者
登記がなくても対抗できる場合(背信的悪意者、無権利者等)
前回、不動産の二重譲渡のような場合、原則として、登記がなければ、第三者に所有権を対抗できないということを説明しました。しかし、これには例外があり、登記がなくても、第三者に対抗できる場合があります。どんな場合があるでしょうか?以下、説明します。
判例では、登記がなければ対抗できない「第三者」について、「第三者とは、当事者および包括承継人(相続人等)以外の者で、登記の欠缼(けんけつ)を主張する正当な利益を有するものをいう」と述べています。正当な利益を有していれば「第三者」にあたりますが、正当な利益を有していなければ「第三者」にあたらないのです。すなわち、正当な利益を有していないので、登記で優先順位を決める必要がないわけです。
1 背信的悪意者
「第三者」にあたらない場合として、まず、「背信的悪意者」(単なる悪意者を超えて、登記の欠缼を主張することが信義に反する者)が挙げられます。
たとえば、すでに不動産の売買契約があることを知っていて、自分で使うつもりがないのに、単に第一買主を困らせる目的で(あるいは、「そんなにその不動産がほしいなら金銭をよこせ」というふうに、自由競争の範囲を超えた不当な利益を得る目的で)売主からその不動産を譲り受けた者は、「背信的悪意者」にあたり、このような者に対しては、登記がなくても所有権を対抗することができるのです。
2 無権利者等
次に、「無権利者」が挙げられます。
たとえば、①AからB、AからCへの、不動産の二重譲渡において、AC間の売買契約が虚偽表示等で無効だった場合や、②AからBへの譲渡がおこなわれたが、Cが、Aに断りなく、自己に登記を移転した場合のように、AC間でまともな売買契約がない場合、Cは「無権利者」といえ、このようなCに対しては、登記がなくても対抗することができるのです。
同様に、「不法占拠者」に対しても、登記がなくても対抗することができます。不動産に勝手に居座っている者が、不動産の買主に対して、「あなた登記がないじゃないですか。あなたの負けです」と主張するのはおかしいですよね。
3 不動産登記法第5条の場合
さらに、「詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者」(妨げたうえで自己に登記を移してしまう)や、「他人のために登記を申請する義務を負う者」(登記をしてくれと頼まれているのに、預っている書類等を奇貨として、自己に登記を移してしまう)も、やり方があまりに酷いので保護に値しません(これらの者は、不動産登記法第5条に定められています)。
そこで、これらの者に対しても、登記なしに所有権を対抗することができます。
以上のように、背信的悪意者、無権利者(不法占拠者含む)、詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者、他人のために登記を申請する義務を負う者に対しては、買主は、登記がなくても所有権を対抗することができます。
取消し後・解除後・時効完成後の第三者
以上、不動産の二重譲渡について説明しました。不動産の二重譲渡があった場合、原則として、登記がなければ、第三者に対抗できないのですが(このように登記で優劣を決める関係を、「対抗関係」といいます)、これに関連して、「取消し後の第三者」「解除後の第三者」「時効完成後の第三者」について説明を加えます。
1 取消し後の第三者
甲が乙に騙されて不動産を売却し、さらに乙が丙に不動産を売却したが、その後に甲が詐欺による意思表示の取消しをした場合、丙が善意であれば、甲は丙に所有権を主張できず、丙が悪意であれば、甲は丙に所有権を主張できます。これは「意思表示」の分野ですでに学習しました。すなわち、丙の善意・悪意によって、甲が対抗できるかできないか、結論が分かれるのです。登記の有無は関係ありません。そして、この場合における丙は、甲が取り消す前に登場していますので、「取消し前の第三者」と呼ばれます。
では、甲が乙に騙されて不動産を売却し、甲が詐欺による意思表示の取消しをした後に、乙が丙に不動産を売却した場合はどうでしょうか。丙は、甲が取り消した後に登場していますので、「取消し後の第三者」と呼ばれます。この場合は、甲から乙に移った権利が、甲の取消しによって乙から甲に戻ると考えます(「復帰的物権変動」といいます)。そして、乙から甲に権利が戻っているにもかかわらず、乙は丙に不動産を売却しています。すなわち、この場合、乙を起点とした二重譲渡と類似の関係と考えることができます。したがって、取消し後の第三者の場合、丙の善意・悪意にかかわらず(背信的悪意者なら話は別ですが)、甲は、登記がなければ、丙に所有権を対抗することができません。
2 解除後の第三者
甲が乙に不動産を売却し、さらに乙が丙に不動産を売却したが、その後に甲が契約の解除をした場合、すなわち、丙が「解除前の第三者」の場合、丙の善意・悪意にかかわらず、丙に登記があれば、丙は保護されました。これはすでに「解除」の分野で学習しました。
これに対して、甲が乙に不動産を売却し、甲が契約の解除をした後に、乙が丙に不動産を売却した場合、すなわち、丙が「解除後の第三者」の場合は、「取消し後の第三者」と同様、乙から甲へ、乙から丙へと権利が移転したと考えます。したがって、解除後の第三者の場合、丙の善意・悪意にかかわらず、甲は、登記がなければ、丙に所有権を対抗することができません。
3 時効完成後の第三者
甲の不動産を乙が占有していた場合において、甲が丙に売却した後に、乙が不動産を時効取得した場合、すなわち、丙が「時効完成前の第三者」の場合、乙は、登記がなくても、丙に所有権を対抗することができます。なぜなら、乙が時効取得した時点での所有者は丙であり、乙と丙はちょうど買主と売主(当事者)のような関係と考えられるところ、すでに学習したように、買主は売主に登記なくして所有権を主張できるからです。実際上も、甲や丙は、時効中断する機会があったにも関わらずそれを怠っていたので、乙が保護されても仕方がないといえるでしょう(また、丙が登場した段階では、乙はまだ不動産を時効取得していないので、乙が登記を備えることも難しいでしょう)。
これに対して、甲の不動産を乙が占有していた場合において、乙が不動産を時効取得した後に、甲が丙に売却した場合、すなわち、丙が「時効完成後の第三者」の場合は、甲から乙へ、甲から丙へと権利が移転したと考えます。したがって、時効完成後の第三者の場合、丙の善意・悪意にかかわらず、乙は、登記がなければ、丙に所有権を対抗することができません。乙は、時効取得により、いつでも不動産登記をすることができるので、これを怠った場合、不動産の所有権を対抗できなくなっても、それは仕方がないといえるでしょう。
…今日はこれぐらいにしておきましょう。今回は、背信的悪意者や無権利者等に対しては、登記がなくても権利を対抗できるということと、取消し後の第三者・解除後の第三者・時効完成後の第三者の場合は、対抗関係(二重譲渡類似の関係)と考え、登記で決着を付けるということを押さえましょう。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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