予算が承認されていない事業は、原則実施することはできません。では、予算に組み込むにはどうすればよいのでしょうか。今回は、予算の作り方について考えてみましょう。
目次
- 事業計画の重要性
- 事業計画作成の注意点
- 収支予算案の作り方
- 予備費の使い方
- 収支決算後の剰余金の活用
- 予算が決まるまでの対応
- まとめ
事業計画の重要性
管理組合は、建物を維持保全するために何をしなければならないのか、また、何をしたいのかを明確にする必要があります。そのためには、1年間だけではなく、2~3年から5年くらい先までの中長期の事業計画と25年超の長期修繕計画を作成することが大事です。将来のことを予想するのは難しいですが、先々必要になるお金がどのくらいになるかの算段とその対応策について計画を練っておく必要があります。一方、3年後に500万円の修繕工事の予定があるから、今年はもっとお金を貯めるというのも、りっぱな事業計画の一つといえます。
事業計画作成の注意点
事業計画を作るには、次のような点に注意しましょう。
- 管理規約に定められた管理組合の業務との整合性を図ること
- 中長期の事業計画の一環としての、今年の位置付けを明らかにすること
- 前年度の事業計画の達成状況を勘案すること
- 各事業の実施時期を具体的、かつ、明確にすること
- 財政上の資金的裏付けを明確にすること
事業計画と予算との関連を考えてみましょう。
各年の事業計画を立案しても、必ずしも計画どおりに実行されず、積み残しの事業が発生することもあり得ます。去年までの未実施項目が存在していないかを確認のうえ、来期の予算を検討します。
各事業の実施が決定したら、今度は各事業を実施するためのお金をどうやって賄うのかを検討し、今年の収入の中から支払うもの、これまでの積立金を取り崩して支払うものなどを決定します。
当期の会計年度の収支状況を確認します。
収支のバランスを点検し、次期会計年度の管理費会計、修繕積立金会計の支出項目ごとに予算額を算出します。
月次での予算と実績の対比を行うためには、各事業の実施時期を明確に決定することが大事です。
収支予算案の作り方
収入科目を算出する場合
- 管理費・修繕積立金は、所定月額×12ケ月分を計上
- 駐車場使用料は、会計年度に利用された区画に係る使用料の合計を計上
- ただし、駐車場の使用台数に空きがあれば、収入の見直しが必要です。
- 駐輪場使用料は、会計年度内に申し込まれた自転車台数に係る使用料の合計を計上。駐輪場の使用台数に空きがあれば、収入の見直しが必要です。
- 専用庭使用料・ルーフバルコニー使用料は、所定月額×12ケ月分を計上
- 保険金事故による保険金の入金が見込まれる場合は収入を計上
- 管理費等に値上げがあれば、改定前・後の収入を計上
その他項目に改定の必要がない場合は、前年度と同じ予算額を計上
支出科目を算出する場合
管理費会計では、建物の維持管理に必要な項目を抽出します。例えば
エレベータ設備点検、給水設備点検、貯水槽清掃、消防設備点検、植栽剪定、特別清掃などは、会計年度内に発生したすべての支出科目を計上します。修繕費は日常起こりうる小修繕としての金額を計上します。その他の項目も改定の必要がない場合は、前年度と同じ予算額を計上します。
修繕積立金会計では、「修繕積立金は、特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる」とされ、「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」、「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」、「敷地および共用部分等の変更等」とその使途は限定されています。
来期の事業計画として実施する項目の予算を計上します。
予備費の使い方
予算の項目で「予備費」というのがありますが、これは臨時的で、内容がわからない支出に備えて、あらかじめ計上しておく項目のことです。
予備費を予算に計上しておくと、予想外の支出が発生した場合、臨時総会を開催して収支予算の修正案について承認を得る必要がなく、予備費の範囲内で支出が実行できます。しかし、予備費勘定を安易に使用することは、不適正な支出が発生する余地を残すことにつながります。
原則的に、予算策定上は、予備費勘定の使用は行わないこととし、計上する場合には、その理由および予算額の妥当性を確実にすることをお勧めします。
収支決算後の剰余金の活用
標準管理規約第61条によれば、「収支決算の結果、管理費に余剰が生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する」と定められています。
事業計画等に基づき、必要となる支出を予算に計上し、想定される収入との間に差額が生じ、それが一定額以上の場合には、管理費会計から修繕積立金会計へ繰り入れて、将来の修繕工事に備えて、お金を蓄えるなど、剰余金を有効に運用することは大事です。
例えば、管理費会計から修繕積立金会計へ300万円振り替える旨の収支予算を作成し、総会の承認を得ます。管理費会計に余裕がある管理組合の場合、毎年、計画的に数百万円単位の振替を収支予算に組み入れている管理組合もあります。
予算が決まるまでの対応
旧マンション標準管理規約では、通常総会は、第42条第3項で新会計年度開始後2ケ月以内に招集することとしています。この場合、新会計年度開始後、予算案の承認を得るまでに一定期間を要することになります。
この収支予算が存在しない空白期間を埋めるために、通常総会に先駆けて今年度のうちに臨時総会を招集し、次年度の収支予算案の承認を得ます。その後、今年の会計年度終了後、通常総会を開催して本収支予算を決めるという段取りになります。この方法は、理論的には正しいですが、組合員の便宜を考えると必ずしも最善策とはいえません。
旧マンション標準管理規約タイプの管理組合においては、臨時総会を開催せずに、収支予算が存在しない空白期間を生じさせない方法として、次の方法が考えられます。
- 通常総会で今年度の収支予算を確定させる際、来年度の本予算が確定されるまでの暫定予算についても同時に承認を得る。
- 通常総会で今年度の収支予算を確定させる際、来年度の暫定予算についての承認を一定期間および一定金額の範囲内で理事会に一任することに関して承認を得る。
実務的には、理事会一任として収支予算の空白期間を防止することが多いです。しかし、こんなややこしいことをやっている管理組合は、数少ないと思います。改正されたマンション標準管理規約では、迅速かつ機動的な業務の執行ができるよう、この収支予算の空白期間における支出について、第3項、第4項の規定を設けております。
具体的な経費の明確化として、以下のように定義しています。
第3項第1号に定める経費とは、第27条各号に定める経費のうち、経常的であり、かつ、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるものであり、前年の会計年度における同経費の支出額のおよその範囲内であるもの。
第3項第2号に定める経費とは、総会の承認を得て実施している工事であって、その工事の性質上、施工期間が長期となり、二つの会計年度を跨ってしまうことがやむを得ないものであり、総会の承認を得た会計年度と異なる会計年度の予算として支出する必要があるもの、かつ、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるもの。
旧マンション標準管理規約をもとに管理規約を改正した管理組合が多いと思いますが、これを機に、収支予算が存在しない空白期間を生じさせないよう、最新のマンション標準管理規約に変更されることをお勧めします。
まとめ
今回は、予算の作り方と注意点をまとめてみました。「事業計画なくして予算なし」といわれますが、管理組合として、長期的な展望をもって、何をするのかを明確にし、予算の裏付けをしておきましょう。
北林真一
大学卒業後、一貫して不動産業界に従事してきました。
皆さまの大事なお住まい(マンション)のことは私にお任せください。
【得意分野】・合意形成の進め方 ・大規模修繕工事
【モットー】謙虚であれ、誠実であれ
【特技】日本酒と音楽(邦楽除く)は少しだけ詳しいです。
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