こんにちは福田です。今回のタイトルとは直接関係はないのかもしれませんが、最初に、当社のコンクリート中性化の劣化診断結果についての事例をお話ししましょう。以前このブログの中でご紹介した岩槻の当社で管理するあるマンションです。
築27年・39戸・4階建のマンションです。
- コンクリートの回復?
- 再アルカリ化工法
- 断面修復工法
- 亜硝酸リチウムとは
- まとめ
今回の調査報告書より
診断の結果、調査個所2カ所とも基準以上に中性化が進んでいました。
コンクリートの回復?
珍しい事例でした。築27年で、標準的な中性化の予測深度は7.7ミリですが、それを大幅に上回る結果となりました。次回、3回目の大規模修繕工事には要重要検討事項ですね。さて、いったん進んだ中性化はもとに戻すことができるのでしょうか?まだまだこの方法については参考になる事例は少ないと思われるのですが、改善策として現在ある工法をいくつかご紹介したいと思います。
(※ブログ紙面上、概要のみお伝えいたしますのであしからず。)
まず中性化領域の回復(既に中性化したコンクリートのアルカリ性を回復する)する事を目的といたします。
※「 」部分は「一般社団法人 コンクリートメンテナンス協会」のHPより引用。
再アルカリ化工法
「今後の中性化進行が将来的に鉄筋位置に到達すると想定される場合には、電気化学的な手法を用いて中性化したコンクリートにアルカリ性を再付与する方針を採ることができます。再アルカリ化工法は、コンクリート表面に陽極材と電解質溶液を設置し、陽極からコンクリート中の鉄筋(陰極)へ電流を流すことによってアルカリ性溶液をコンクリート中に浸透させ、コンクリート本来のpH値程度まで回復させる工法です。再アルカリ化工法にてコンクリートのpHが回復することにより、鉄筋腐食環境が改善されます。再アルカリ化を行うための電流量は通常1A/㎡程度で、約1~2週間の通電を行うのが一般的です。通電が終わると陽極材は撤去されます。かぶりコンクリートが比較的健全な状態の場合ではコンクリートをはつることなく中性化深さを0(ゼロ)に戻すことができるため、このような劣化程度の構造物に対して適応性が高いといえます。」
※実例として、大阪城のコンクリートの再アルカリ化に、この工法が採用されています。この工法の特徴は給水管の延命措置の一つでもある電気防食工法の原理と似ていますね。流す電流は直流電流になります。
断面修復工法
亜硝酸リチウムを用いた補修工法として
・表面被覆工法・・・・・・・・・・・劣化因子の遮断
・表面含浸工法・・・・・・・・・・・ 〃
・ひび割れ注入工法・・・・・・・ 〃
・断面修復工法・・・・・・・・・・・劣化因子の除去
・内部圧入工法・・・・・・・・・・・鉄筋腐食の抑制
等があります。この工法はすべて亜硝酸リチウムを利用した工法になります。以前より亜硝酸リチウムの効能は分かっていましたが、今回、表面被覆工法をある大手防水メーカーが取り組んでいますのでご紹介しましょう。 亜硝酸リチウムを用いた表面被覆工法 「リバンブ工法」―田島ルーフイング㈱の製品です。
コンクリートの中性化が進行すると鉄筋の不動態皮膜が損なわれてしまい、錆びやすくなることが分かっていますのでこの方法は有効ですね。
表面(図の緑の部分)に亜硝酸リチウム水溶液+ポリマーセメント+プライマーの順に塗りこみます。最近は小型センサーが開発され、コンクリートのアルカリ度や鉄筋の発生状況がわかるようになってきました。破壊試験をしなくてもセンサーの確認でコンクリートの健全度状況がわかる時代になってきました。技術力に感謝です。
亜硝酸リチウムとは
コンクリート補修用混和剤として開発された工業用化学製品であり、その原料は「ナフサ」と「リシア輝石」です。亜硝酸リチウム(LiNO2)は、正の電荷を帯びたリチウムイオン(Li+)と、負の電荷を帯びた亜硝酸イオン(NO2-)とがイオン結合した物質で、水に溶けやすい性質を持っており、亜硝酸リチウム水溶液として製品化されています。色は薄い黄色または青色の透明な水溶液です。
まとめ
まだ、この工法については世の中の分譲マンションの実績はさほどないのが実情です。先ほど紹介した例では土木工事では橋梁などの改修はありますが、建築工事、ましては分譲マンションの改修事例はほとんどありません。来年からマンションの建替え決議が4/5以上から2/3以上に緩和されますが、かと言ってすぐに立替が現実に可能だとは思われません。旧耐震設計・総合団地型のマンションの場合は良いでしょうが、30戸前後のマンションでは簡単に建替えはできないかもしれません。今回ご紹介した方法でマンションの耐久性を改善する策と建替えた場合との特に費用面の比較検討が必要になります。また、国交省より「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」が発行されていますので参考にされるといいですね。マンションの老朽度判定の基準、費用対改善効果に基づく建替えか、修繕・改修かの判断の考え方や進め方などを解説しています。
さて、マンションの日本全国のストック数は、約600万戸になります。最近では供給数が需要数を上回っていることも報じられていますが、これから、3回目、4回目の大規模修繕工事を迎えるマンションは確実に増えていくことでしょう。日本は地震国ですが、2009年導入された100年耐久性の長期優良住宅制度を口切りにして、これから築80年、90年、いや、100年マンションの数が増えることを予測、そして期待している一人です。
福田 純行
前職の設計事務所時代に手掛けた設計・監理物件は北海道は北見市から南は長崎の佐世保市まで。今となってはとても懐かしい。現在は主にマンションの大規模修繕工事に関するコンサルティング(大規模修繕工事の改修設計・長期修繕計画(案)の作成等)を担当。人が住むマンションのストーリーを一つずつ守るのが役目です。
目指せ、「チェンジ・ザ・ワールド」・E.クリプトン・・・・グルーブな仕事を
皆さんのために。
有資格:一級建築士
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