こんにちは、仲井です。今回は、民法の「時効」のポイントを説明致します。「時効」には、「消滅時効」と「取得時効」の2種類があります。どちらもあまり出題の多くない分野ですが、出題されたときは点数がとりやすいので、ポイントを押さえておきましょう。では、早速中身に入ります。
- 消滅時効
- 取得時効
消滅時効
まずは、消滅時効から説明致します。
1消滅時効とは
例えば、借りたお金を返さない債務者がいる場合において、債権者が長年放置していたとき、債権が消滅して、それを債務者に主張されることにより、もはや支払ってもらえなくなるということがあります。
これが「消滅時効」で、「権利の上に眠る者は保護しない」「永続する事実状態を尊重する」という考え方によります。
2消滅時効の進行・債権等の消滅時効期間
では、消滅時効はいつから進行するのでしょうか(消滅時効の起算点)。また、債権等の権利は、何年で時効消滅するのでしょうか(消滅時効の期間)。
まず、消滅時効の起算点についてですが、消滅時効は、「権利を行使することができる時」から進行します。例えば、確定期限付債権(「10月の第3日曜日に払います」のように期限がハッキリしているのが確定期限です)や不確定期限付債権(「東京に次に雪が降ったら」「父が死亡したら」等、いつかは来るがそれがいつになるか分からない、というのが不確定期限です)の場合、権利行使できる期限到来時から消滅時効が進行します。期限の定めのない債務(「いつでも気が向いた時に払ってよ」というイメージ)は、債権が発生すればいつでも権利行使できるので、債権発生時から消滅時効が進行します。
そして、起算点からどんどん期間が進行した結果、債権は、10年間行使しないときは、消滅し、債権または所有権以外の財産権(地上権、地役権等)は、20年間行使しないときは、消滅します(なお、所有権は時効消滅しません。自分の物なのですから、ほったらかそうが何しようが自由なのです。もっとも、他人が土地等の所有権を時効取得した反射的効果として、所有権を失うことはありますが、これは権利そのものが消えてしまう消滅時効とは違います)。
3短期消滅時効・判決で確定した権利の消滅時効
上記のように、一般の債権は10年で時効消滅しますが、例えば、マンションの管理費のように、年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅します。これが定期給付債権の短期消滅時効です。
また、ほかにも民法は短期消滅時効を定めています。例えば、よく出される例ですが、いわゆる飲み屋さんの代金は1年で時効消滅すると言われています。昔は、ツケをためると会社に電話がかかってきて恥ずかしい思いをした人がいたものです。
もっとも、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、確定判決によって確定した権利については、その時効期間は、10年とされます。公的機関によるお墨付きをもらったので、強い権利になるわけですね。
4時効の中断
さて、消滅時効は、権利を行使することができる時から進行しますが、権利者は、この進行を中断することが可能です。債権の場合、時効は、「請求」や「承認」によって中断させることができます(試験できかれたことがありますが、長期入院程度では時効中断しません)。
「請求」は、裁判上の請求等が典型例ですが、裁判上の請求は、訴えの却下または取下げの場合には、時効の中断の効力を生じません。
「承認」は、債権の場合、債務者が「あなたには権利がありますよ」と認めることです。そして、被保佐人や被補助人は、単独で債務の承認ができるとされています。
裁判上の請求に関連して、「催告」についてもコメントしておきましょう(時効期間寸前になっていて裁判を起こす余裕がない場合に有効な方法です)。「催告」は、内容証明郵便のように、裁判外で「払え」と告げることですが、このような催告だけでは時効中断しません。催告は、6カ月以内に、裁判上の請求等をしなければ、時効の中断の効力を生じません。そして、期間内に裁判上の請求等をすれば、催告の時にさかのぼって時効中断します。逆に、催告した後、6カ月以内に再び催告しても、時効中断の効力は生じません。
取得時効
次に、取得時効を説明致します。
1取得時効とは
例えば、他人の不動産でも、ずっと占有していれば(「占有」とは、単に物を所持している状態とイメージしましょう。極端な話、泥棒にも占有はあるのです)、占有していた人がその不動産の所有者になってしまうことがありえます(隣地との境界線があいまいだったり、不動産の売買が無効だったまま長期間経過した場合に起こりえます。また、災害や紛争等の極限状態で、他人の不動産に居座るということも考えられなくはないでしょう)。
これが「取得時効」で、消滅時効と同じく、「権利の上に眠る者は保護しない」「永続する事実状態を尊重する」という考え方によります。
2所有権の取得時効の条件
もっとも、不動産等の所有権を時効により取得するには、条件があります(所有権以外の財産権も時効取得できますが、ここでは所有権の時効取得で説明を進めます)。
民法では、「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」と規定しています。
すなわち、他人の物であることにつき悪意、または、善意かつ過失があるときは、20年間の占有でその物の所有権を時効取得し、善意かつ無過失であるときは、10年間の占有でその物の所有権を時効取得します。
そして、善意無過失については、占有開始の時に善意無過失であれば十分であり、占有の途中で悪意になっても10年間の占有で所有権を時効取得します(むしろ、途中で悪意になるのが普通でしょう)。
また、所有権を時効取得するには、原則として「所有の意思」が必要です。所有の意思が認められない場合、原則として所有権を時効取得することはできません。平たく言えば、賃借人のように、「借りる意思」では、原則として所有権を時効取得できないということです。
なお、「平穏、かつ、公然」は、「脅したりせず、かつ、コソコソしないで」ぐらいの意味ですが、問題文に書いてあることが多く、試験対策上はあまり気にする必要はないでしょう。
3時効の中断
取得時効においても、権利者は、「請求」や「承認」によって、時効を中断させることができます。例えば、不動産の所有者が、占有者に対して、「出ていけ」と「請求」したり、占有者に「この不動産は確かにあなたのものです」と「承認」させたりすることによって、取得時効を中断させることができるのです。
…今日はこれぐらいにしておきましょう。民法を得意分野にするには、理由・趣旨を考えながら、具体例を用いて学習することです。
仲井悟史
東京イーストエリアで約10年にわたりマンション管理担当者を経験しています。前職は資格試験予備校で長年にわたり宅建等の講師として教壇に立っていました。その経験を活かし、現在、社内講師も務めています。息子たちと野球をしたり観たりすることが最大の楽しみ。
保有資格:管理業務主任者・マンション管理士・マンション維持修繕技術者・宅地建物取引士
特技:中国語
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