こんんちは。テクノ防災サービスの西部(ニシブ)です。
日頃、特定建築物の定期調査の業務を行っております。
建築物が竣工後適切に維持保全が成されているかの調査対象には
『建築物の外部/ 内部』、『避難施設等』、『敷地及び地盤』などの項目があります。
合わせて、『耐震診断及び耐震改修の調査状況』の報告義務もあり、地震に対する耐震性が
保持されているかの実情の調査にもなっています。
そこで、マンションにおける耐震性と耐震改修工事の種類について、簡単に説明したいと思います
1.耐震性とは
耐震性とは地震や台風の外力により建物が守られる性能を言います。
建築基準法の改正に伴い、その基準は見直されてきましたが、1978年の宮城県沖の大地震の甚大な被害を背景に、1981年(昭和56年)に現在の耐震基準の原点とも言える『新耐震基準』が導入されました。
「新耐震基準」の定義とは、以下の通りです。
① 数百年に一度の地震(震度6強~7程度)において、建物が倒壊・崩壊しない。
② 数十年に一度の地震(震度5強程度)において、建物が破損しない
2.耐震強度の種類
建築基準法上の「新耐震基準」の強度確保により、建物新築時における耐震性は
設計上満たされます。しかしながら、より安全性が求められる建物の性能確保
においても、さらに分類した評価制度が2004年4月に創設されました。それが、「住宅の品質の確保の促進等に関する法律(品確法)」における「耐震等級」であり、耐震性評価を3段階に分類し、建物の安全性を表しています。
・耐震等級 1 :建築基準法で定められた水準と同程度
・耐震等級 2 :耐震等級1で想定する地震の1.25倍の強さの揺れに耐えられる
・耐震等級 3 :耐震等級1で想定する地震の1.5倍の強さの揺れに耐えられる
一般に、公共性があり災害時の避難所と指定されている建物の耐震等級は「3」が確保されています。マンションにおいては、令和元年度 一般社団法人住宅性能評価・表示協会のデーターでは、80%以上が耐震等級「1」です。皆さんがお住まいのマンションにおいても、耐震等級が設定されています。
近年は耐震等級が、「2」や「3」が確保されたマンションも数多く建築されており、
既にお住まいであれば、より安全性が確保されているマンションだと言えます。
尚、耐震等級を調べるには、マンション全体で「住宅性能評価書」を取得することにより
確認することができます。
3.耐震診断の対象の建物とは
上記で述べた通り、「特定建築物定期調査」においては、「耐震診断及び耐震改修の調査状況」の報告は必須項目となっています。ここにおける耐震診断対象の建物は、1981年6月1日以前に確認申請が受理された建物です。つまり、確認申請提出時において、「新耐震基準」を満たしたうえでの構造計算が成されているかがポイントです。1981年5月(以前)に新築された建物でも、「新耐震基準」以上を満たした建物は数多くありますが、診断の対象建物となります。又、1981年6月以降において竣工された建物においても、確認申請の受理日が起算日となりますので、対象建物となり得る可能性があります。建物が竣工されるまでには、設計・確認申請提出→設計審査・確認申請受理(行政庁)→建物着工→建物竣工の工程があり、確認申請の受理から建物竣工までは長い物件で1年以上掛かる建物もあります。その為、1982年頃に竣工の建物においても、「旧耐震基準」をもとに設計された可能性の物件はありますので、注意が必要です。
4.耐震診断の方法
一般に建物竣工時の設計図書(構造図含)をもとに建物照合を行い、構造計算の再検討を行うこと
により、「新耐震基準」以上の耐震性が満たされているかの判断が成されます。
しかしながら、竣工時の設計図書等の資料が残っていない場合は、建物の部材の寸法を現地
測量を行ってから、再度構造図を作成しなければなりません。躯体(構造上重要な柱や梁等)を斫って鉄筋の量や配置、コンクリートの中性化等の分析を行う必要性もあります。
耐震性の有無を現況の建物から判断する方法は、一般的に費用と時間が掛かる作業となり得ます。
5.耐震改修の種類
耐震診断により建物の耐震性の有無が判断され、耐震性「無」の判定おいては耐震改修の実施の必要性が高まります。又、建物の耐震診断の判定に関わらず、将来の震災に備えたより高い耐震性能の確保の為、耐震改修の検討が必要になる場合も考えられます。
ここでは、現在実施されている代表的な耐震改修工事の工法について紹介いたします。
大きくは耐震補強、制震、免振の三つの方法があり、それぞれに特徴があります。
① 耐震壁補強: 新たな壁を鉄筋コンクリート等で増設し、耐震補強を行います。
建物内部外部を問わずに設置できます。
② 鉄骨枠組補強 : 柱、はりに囲まれた中に鉄骨ブレースを増設することにより耐震補
強を行います。開口部を残しながら耐震性能を向上させることが可能です。
③ 外付け鉄骨補強 : 建物の外側に鉄骨ブレースを増設することにより耐震補強を行い
ます。既存の壁やサッシュ(サッシ)の解体が少なく済みます。
④ バットレスの増設 : 耐震壁などの構造躯体を建物の外部に増設することで耐震改
修を行います。建物周囲や敷地に余裕がある場合に適しています。
⑤ 柱巻き付け補強 : 既存の柱に繊維シートや鋼板を巻き付ける方法で耐震補強を行い
ます。マンション等、各住戸均等に対応する場合に適しています。
⑥ 耐震スリットの新設 : 鉄筋コンクリート造の既存建物の柱の近くに隙間を設けて
柱の粘り強さを向上させます。これ以外の補強工法を組み合わせて行うことが一般的です。
⑦ 制震機構の組み込み : 制震補強ダンパーなどで、建物に影響を与える地震力を吸収
することにより、構造体の損傷低減を図ります。
⑧ 免振構造化 : 免振装置を建物の基礎下や中間階に設けることで地震力の建物への入
力を大幅に低減することにより、構造体の損傷低減を図ります。
これ以外にも改修の工法はあります。
6.まとめ
一般的に近年竣工の建物は「新耐震基準」を基に建てられており、設計上は一定の耐震基準を満たしています。しかしながら1981年6月1日以前の確認申請受理の物件(※竣工日とは別日)においては、基準の耐震性に問題がある可能性がある為、耐震診断が未実施であれば、管理会社等に相談する事をお勧めします。又、近年の自然環境下においては、震災の事例からも決して「新耐震基準を満たしているから安心」とも言い切ません。もしもの震災時の為の、日頃の備えも必要だと思われます。
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