ホームライフ管理 ビル事業本部の渡邊 将貴と申します。弊社ビル事業部ではオフィスビルや賃貸マンションの設備点検および工事、清掃作業、検針業務などのサービスを展開しております。
今回は自らの専門分野とする環境衛生についてのお話です。生活お役立ち情報は出てきません。あしがらずご了承ください。
ビル管理士 × アクアリウム
私渡邊は、ビル管理士として業務に従事する傍ら、趣味でアクアリウムを嗜んでおります。
大きさは20cm×25cmの水槽を3台並列に構成、中にはお魚さんやチェリーシュリンプという小型のエビさんが生活しており、さながらエビマンションといったところです。A棟、B棟、C棟は設備を共用しつつそれぞれ独立していて、違うカラーリングのエビさんが世代交代しながら暮らしています。
このエビマンションですが、管理人の渡邊は普段会社で仕事をしているため、常に付きっきりというわけにはいきません。そこで環境衛生のノウハウを使って維持管理にあまり手がかからないような工夫をしております。
手抜き水槽?
このエビマンション、自分で紹介しておいて何ですが実はかなり手抜きでして、通常のアクアリウム水槽にはほぼ必ずあるはずの濾過フィルター、ヒーター、CO2添加装置がありません。後ろ2つはともかく、濾過フィルターすらないのですよこの水槽。
唯一あるのは照明(タイマースイッチ付)、エアレーション(いわゆるブクブク)だけで、小学校とかによくあるメダカ水槽と設備構成は全く同じです。そのエアレーションもポンプからの送気管を、三方弁と逆止弁を用いて3棟に分岐させて共用化させています。
え、こんなんでちゃんと飼育できてるの?環境構築しないとすぐ☆になっちゃうんじゃないの?
───これができるんですね。(ニヤリッ)
均衡条件(環境衛生が保たれる条件)をきちんと理解して、それに基づいて環境を適切に維持してあげれば、お魚さんやエビさん、水草は快適に生活できます。エビさんは抱卵を定期的を行い、これまで繁殖と世代交代を繰り返して今に至っています。
この水槽はコロナの頃に立ち上げたのでそろそろ4年目で、1つの水槽につき30~40匹程度のエビ人口で推移しています。理論的には上記の均衡条件が保たれている限りずっとこの状態を維持できるでしょう。
環境衛生とは
「衛生」とは人々の健康を守るために身の回りの状況を改善する考え方です。労働衛生と環境衛生はセットで語られることが多いですが、労働衛生が「働き方」というソフト面における環境の維持・向上であるのに対して、環境衛生は「建物」あるいは「ファシリティ」というハード面における環境の維持・向上といえます。
衛生環境は人間のみならず、その環境下にあるすべての生物が影響を受けます。アクアリウム水槽は建物と同じく人為的環境ですので、維持管理の考え方は人間が住むビルやマンションと同じです。違いは環境を満たしているのは空気ではなく水(淡水)だということで、衛生環境要因としては以下のような要素があります。
光源 | 生物にとって快適な明るさと点灯時間 水草が光補償点を満たす範囲 |
水温 | 概ね20℃以上28℃以下 |
水質 | PH、KH、GHが適正 アンモニア、亜硝酸、硝酸塩が基準値以内 |
溶存酸素濃度 | BOD CODが適正 好気性バクテリアの定着が十分 |
溶存CO2濃度 | 生体が酸欠状態にならず、かつ水草が光合成を行える範囲 |
生物的サイクルをなるべく自然に近づける
これらの均衡条件を満たす飼育環境を実現すれば、お魚さんやエビさんは快適に生活ができます。
生体(CO2・アンモニアを排出)、ろ過バクテリア(アンモニアを硝酸塩に分解)、水草(光合成:CO2と硝酸塩を消費してO2発生)の生物的サイクルが噛み合う形で調整していき、これ以上変化しない状況に持っていくとそれが均衡条件となります。それぞれの最大公約数を満たすイメージでしょうか。
先述の濾過フィルター(BOD低下)、ヒーター(水温上昇)、CO2添加装置(水草成長促進)はその条件を満たすための補助装置に過ぎません。あった方が環境維持管理が楽になるという十分条件にすぎず、均衡条件を満たして環境さえ適正に保たれるならば、別に導入しなくてもかまわないというわけです。
この場合、BOD上昇は底砂清掃と多孔質材(セラミック材)の導入でカバー、水温低下はマンションの断熱効果を生かし、リン酸塩は光飽和点の高い陽性水草で消費させ、CO2添加装置は光補償点の低い陰性水草の置換で不要化……という代替的方法により、生物サイクルを人為的に補完することで均衡条件を実現しています。
人間の仕事はサイクルの分析と補完
ただし水槽はあくまでも建物と同じ人為的環境に過ぎず、川や湖のような自然環境と違って不完全な生物サイクルしか持っていません。そのため放っておくと均衡条件が崩れてしまい、適正な環境をいずれ維持できなくなってしまいます。
アクアリウムにおける人間の仕事は何かというと、衛生環境分析と生物サイクルの補完です。わかりやすいところで言えば、お魚さんエビさんにエサをあげますが、これは水槽という人為的環境ではエサとなるプランクトンが不足しがちなため、食べ残しがない程度にこれを与えてサイクルを補っているのです。
水質検査についても重要で、上記の項目をモニタリング(日常チェック)を行います。併せて目視点検(生体の泳ぎ方に異常がないか、複数個体が☆になっていないか、設備異常がないか)も行います。
また換水はアクアリウムにおいてとても重要です。水槽は川や湖などの自然環境と違って不完全な生物サイクルしか持たない為、生体が排出するアンモニアが完全に分解されません。硝酸塩が最終産物となるのですが、この物質は弱毒性で水槽環境下では分解されないため、水槽の外に排出する必要があります。
この部分は水槽内における生物サイクルによる解決ができず、濾過フィルターや照明、ヒーターといった機械設備による自動化も難しいため、人間の手で換水を行うのですね。
建物管理の考え方
水槽というのは、むやみやたらに水を変えればいいというわけではありません。アクアリウムの世界には「水を育てる 」という概念があり、濾過バクテリアの定着に成功し、均衡条件を満たして安定している水槽の水を「こなれた水」と言ったりします。
水槽はいわば疑似的な自然なので、基本はお魚さん、エビさん、貝くん、水草、バクテリアなど生体自身のサイクルに任せます。飼育環境が一定で生体数も一定ならば、その生態系は安定するからです。不完全なサイクルとなる部分を機械設備を導入して補完し、自動化が難しいところだけ人間の手で直接行えばいいのです。
主役はあくまでもそこに暮らす生体(生き物)であり、機械設備や人間は裏方に過ぎません。なので毎日甲斐甲斐しく世話をすればそれがベストかというとそれはノーで、高級機材や設備を惜しみなく導入すれば必ずよい環境が保たれるというわけでもありません。それよりも均衡条件を分析することが重要なのです。
これは我々人間の住むビルやマンションといった建物でも同じといえます。基本はビルオーナー様やマンション管理組合様が自治運営を行っていくスタンスが理想です。我々管理会社のフロントマンがあえて提案することの少ない「こなれた」ビルやマンションはうまく回っている証拠と言えるでしょう。
フロントマンは何のためにいるのか
では我々フロントマンは一体何のためにいるのかというと、上記水槽でいえば「水質分析」と「換水」の役目を果たすためにいるのです。各々が担当している建物の入退去状況、設備の経年具合、ご予算、地域的事情等に応じて、上記の「均衡条件」をなるべく満たす形でご提案を行うのが我々の仕事です。
ビルやマンションはただの建築物やハコではなく生き物です。そこには生活する人々の暮らしの灯があり、また年も取ります。建物には人間のライフサイクルと同じく年齢と節目があり、目指すべきビジョンも、最適化するための手段もそれぞれ変わってくるため、それを分析・サポートするために我々はいるのです。
今の建物の現況から、どこを改善するべきなのか? 何の設備(あるいはサービス)を導入するのか? あるいは長期修繕計画で重点的に見るべき点はどれか? その予算はどこからどうやって捻出するか? 手続や決議の方法は? 議案に上げるタイミングは?
───考えることはたくさんありますが、常に自分なりの「最善」(=均衡条件)をビジョンとして描き、実現可能な範囲内においてベストを尽くすことがフロントマンの使命です。そしてオーナー様が住みよい住空間を実現するためのあらゆる可能性を検討し、最適となる提案を行っていくことが実際での実務となります。
そのために我々は建物にまつわる様々な知見を集め、国家資格を備えて日々研鑽をしております。
不動産管理でいえば宅建士、管理業務主任者、マンション管理士、賃貸不動産経営管理士など、設備管理でいえば建築士、施工管理技士、電気主任技術者、消防設備士、ビル管理士などの国家資格を各々の担当業務と適性に応じて学習・取得し、責任と説得力を伴った自分なりの「最善」を、ご提案できるように励んでいるのです。
まとめ
弊社では分譲マンションの他に、賃貸マンションやオフィスビルといったビル建物の総合管理を行っております。各種設備の工事・修繕・点検、清掃作業の実施(床・窓ガラス・空調機および日常清掃)、および環境衛生業務を承っております。
スポット作業・年間作業いずれも対応可能ですので、下記バナーよりお気軽にご相談くださいませ。
渡邊将貴
渡辺 将貴(わたなべまさき)
設備管理会社、ビルメンテンナンス会社を経て2021年ホームライフ管理入社。
神奈川エリアの賃貸物件および法人関係の建物管理業務(ビル管理)を行っています。
(設備管理・清掃実施・環境衛生・安全衛生など)
ビルや設備にまつわるお役立ち情報を発信していきますので
どうぞよろしくお願いいたします。
所持資格:建築物環境衛生管理技術者、消防設備士、FP検定2級
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