先日、飛行機の機内誌に、こんな記事がありました。
「飛行機はすべての便が、それぞれの『フライトプラン(飛行実施計画書)』に則って運航する。このフライトプランを作成し、つつがなく運航できるよう地上からサポートするのが運航管理者である。機長と共に便の運航に対する責任を有し、『地上のパイロット』と呼ばれる運航管理者は・・・」
この記事を読みながら、管理組合は飛行機、パイロットは理事長を中心とした理事会、監事は運航管理者、総会は管制官かな・・・などと、勝手に置き換えて、機中で「管理組合の仕組み」について考えていました。(笑)
目次
- 監査のチェックポイント:概況の把握
- 監査のチェックポイント:書類の網羅性
- 監査のチェックポイント:比較(問題点の絞り込み)
- まとめ
監事の会計監査には、「全体像を把握する手続き」と「個別項目の内容をチェックする手続き」があります。
・監査開始前の全体像を把握するための手続き
チェックをする前に、全体像がわかれば監査がスムーズにできます。
- 概況の把握
- 書類の網羅性等
- 比較(問題点の絞り込み)
・個別項目の内容をチェックするための手続き
決算報告書に出てくる各項目の内容をチェックする手続きです。
- 収入・支出等の項目
- 資産・負債等の項目
今回は、「監査開始前の全体像を把握するための手続き」の説明です。
《監査のチェックポイント》
会計に詳しくない人が監事に選ばれた場合、決算書等の中身を確かめずに、「監査報告書」に署名、印鑑を押している場面を見受けます。会計監査をするときのポイントを押さえておけば、管理組合の活動が理解でき、監査が面白くなるかもしれません。限られた時間の中で、効率よく監査を行うための大事なポイントをまとめてみました。
監査のチェックポイント:概況の把握
決算のチェックというと、その年度の決算報告書だけを見ればよいと思われがちですが、少なくとも前年度分の資料は手元に集めておきましょう。集める資料は、決算報告書そのものだけではなく、通常総会の開催資料として配付された資料一式(事業報告書、監事の監査報告書、次年度予算、その他の添付資料)が必要です。今年度の決算報告書と前年度の決算報告書を見比べて、相違点があれば、なぜ違いが生じているのかを調べ、その原因を追究します。この手続きは、重要な点を見過ごさないために、とても大切な手続きです。今年度にどんな業務を行うことになっていたのか、今年度の収支予算書が前年度の総会で承認された予算と違うところがないか、前年度の監査報告書での指摘事項はないかなど、総会の議事録を読み、今年度に注意しておくべきことがないかを確かめます。今年度の収支の概況を把握するために、今年度の収支予算の「編成方針」を確かめておきます。前年度の収支実績とほぼ同じなのか、収入・支出の各項目について予想を上回った場合の原因は何かなどの情報を入手しておくと、今年度の実績について検討する際、大変参考になります。
また、管理会社に会計業務を委託している管理組合では、管理組合の預金などの管理方式をマンション管理適正化法に定める方式のうち、どの方式をとっているのかについても確かめる必要があります。同法施行規則第87条第2項第1号に定める方式のうち、イとロの方式について、管理会社には保証契約の締結が義務付けられています。イとロでは、保証の対象となる金銭の範囲は異なりますので、保証契約が締結されているか、締結されている場合はどのような内容なのかを確かめておきましょう。
監査のチェックポイント:書類の網羅性
会計報告書
会計報告書として、貸借対照表、収支計算書(または収支報告書)があります。どのような書類が必要なのかわからない場合には、前年度の会計報告書を見て、同一の書類が存在しているのかを確かめましょう。管理組合会計は管理費会計と修繕積立金会計に区分することが必要ですので、それぞれに貸借対照表、収支計算書などの会計報告書を作成していなければなりません。
補助資料
補助資料としては、会計報告書の本表(収支計算書、貸借対照表など)以外の、勘定科目に関する明細書と証憑書類の2種類があります。
(勘定科目に関する明細書)
・収支に関する明細書(収入明細書・支出明細書など)
・貸借対照表に計上された勘定科目の明細(未収金明細書、前払金明細書、未払金明細書など)
すべての勘定科目に明細書が必要というわけではなく、会計報告書を正しく理解してもらうために作成するものであり、法令等によりその作成が強制されるものではありません。未収金明細書に代表されるように、管理組合の収入・支出や財産に重要な意味を有する勘定科目については、明細書を作成することが、管理組合の会計上の問題点の把握とその改善策の検討を行う際に有益です。
証憑書類
- 収入項目(入金通知、入金取引が記帳された預金口座の通帳など)
- 支出項目(支払先からの請求書、納品書、領収書)
- 資産、負債項目(現金実査表、残高証明書、管理会社に会計業務を委託している場合には、管理会社に預けている資金の確認書など)
証憑書類の網羅性については、各勘定科目の監査手続を実施しながら確かめることになりますが、重要なものとしては、金融機関が発行する実在性および金額の正確性を証明する残高証明書があります。
≪留意点①≫残高証明書の取扱い
預金の残高証明書については、一部の口座分だけの入手では不十分で、全口座分を入手することが重要です。監査時に、「通帳の原本を監事に見せるのだから、お金をかけてまで残高証明書を入手する必要はない」という意見をお持ちの方がいますが、それは好ましいとはいえません。通帳は、決算日の翌月の入出金が記載されてはじめて、決算日現在の残高が推定できます。適時に記帳されないと、決算日現在の残高はわかりません。決算日直前に入出金がない場合には、監査の時点で、翌月の入出金が記帳されていないと、記帳された残高がそのまま決算日現在の残高となるのかを確かめることができません。残高証明書は、金融機関が基準日現在の残高の記録に基づいて、残高証明書に記載した金額に間違いないと証明してくれますので、通帳よりも信頼できる資料になります。また、残高証明書のコピーで監査をすることは絶対にしてはいけません。
≪留意点②≫必ず原本を確認する
不正を防止するため、残高証明書は必ずコピーではなく、原本を確かめることが重要です。原本であることを確かめ、口座名義人が財産の分別管理方法に即した名義になっているかを確認します。管理会社に会計業務を委託している場合には、重要事項説明書および管理委託契約書に定められた口座名義と一致しているかを確認します。また、理事長名義の場合は、現在の理事長氏名となっているのかも確かめましょう。
監査のチェックポイント:比較(問題点の絞り込み)
全体的な検討の手続きで大事なのが、「比較」という手続きです。前年度と今年度の項目を見比べ、増減金額を調べ、大きな増減がない場合は、問題ないと判断できます。大きな増減がある場合は、その増減の原因を調べ、納得できる合理的な理由があれば問題ないと結論付けることもできます。増減の発生要因に合理的な理由がない場合は、なんらかの間違いが存在する可能性があります。
前期実績と当期実績の比較
収支計算書と貸借対照表について、同一項目の前期実績と今期実績を比べます。増減金額、増減率をみて、大きく増減がないかを確かめます。
当期予算と当期実績の比較
管理費等の収入および支出のうち、収入項目でも受取利息や雑収入、支出項目では定額委託業務費以外の項目は、予算と実績に差異が生じる場合があります。実績が予算を上回る(予算超過)ことは、予算準拠主義を原則とする管理組合会計において、あってはならないことです。予算で承認された金額以上に支出が可能であれば、管理体制自体に問題があるといえます。
一方、実績が予算を下回る(予算未達、未達成)状態には、2つの解釈が成り立ちます。
・支出を節約したため、結果として予算を下回った。
・予算計上額が適切でなく、結果として予算を下回った。
個別の項目を監査するときに、大きく増減している項目については、重点的に原因を調べる必要があります。
前期実績と当期予算の比較
管理組合では予算が重要な役割を果たします。予算には、無駄な支出を減らし、冗費の発生を抑制する効果があります。このため、予算が適切に策定されていないと、肝心の統制機能が有効に働かず、結果として管理組合の財産が浪費されることになります。予算決定プロセスにも監事の目が必要となります。
まとめ
決算報告書等をチェックするポイントは、「森を見て、木を見る」ことです。事前に監査資料を用意し、比較し、概況を把握することが大切です。
会計監査において、以下の点も留意しておきましょう。
- 決算報告書と月次報告書との整合性の確認
- 通帳、有価証券、領収書、残高証明書などの原本確認
- 貸借対照表、収支計算書内の剰余または損失発生の理由の確認
- 資産運用の危険性の確認
- 未収金の回収状況と回収見込みの確認
- 修繕積立金の不足の可能性の確認
北林真一
大学卒業後、一貫して不動産業界に従事してきました。
皆さまの大事なお住まい(マンション)のことは私にお任せください。
【得意分野】・合意形成の進め方 ・大規模修繕工事
【モットー】謙虚であれ、誠実であれ
【特技】日本酒と音楽(邦楽除く)は少しだけ詳しいです。
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