平成28年の標準管理規約の改正で、マンションの管理運営の困難化、高度化、複雑化への対応の一つとして、外部の専門家の活用方法が示されました。
今回は、「外部専門家の活用」についてご紹介します。
目次
- マンション標準管理規約のコメント全般の新設項目について
- 理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型
- 外部管理者理事会監督型
- 外部管理者総会監督型
- 第三者管理者方式のメリット・デメリット
- まとめ
マンション標準管理規約のコメント全般の新設項目について
コメントが出る前から、第三者管理者方式として、形態はどうであれ、「管理会社・マンション管理士等」が管理者の役割を演じて、管理運営を行っているマンションがあります。このような背景を踏まえて、以下のようなコメントの新設がありました。
コメントの新設追加の内容(コメント抜粋)
近年、マンションの高経年化の進行等による管理の困難化やマンションの高層化・大規模化等による管理の高度化・複雑化が進んでおり、これらの課題への対応の一つとして、外部の専門家の活用が考えられる。以前から、管理組合がマンション管理士等の専門家に対し、相談、助言、指導その他の援助を求めることについては規定してきたが、さらに進んで、外部の専門家が直接管理組合の運営に携わることも想定する必要がある。このような外部の専門家には、管理の執行を担うという点から、特に、管理規約、管理の委託、修繕、建替え等に関する広範な知識が必要とされ、マンション管理士等が外部の専門家として想定される。外部の専門家が管理組合の運営に携わる際の基本的なパターンとしては、「別添1(外部専門家の活用パターン)」に示したとおり、(1)理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型、(2)外部管理者理事会監督型、(3)外部管理者総会監督型の三つが想定される。
この標準管理規約は、理事会を中心とした管理組合を想定したものであり、組合員要件を外した場合には、(1)理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型による外部の専門家の活用を可能とするように規定を整備している。
なお、(2)(3)を採用しょうとする場合における規定の整備の考え方については「別添1」に示すとおりである。
理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型
従来どおり「理事会」を設け、理事会役員の一部(理事長、副理事長、理事又は監事等)に外部の専門家を入れるパターンです。この場合、外部専門家が理事長(管理者)になることも想定されます。ただし、外部専門家を含む役員の選任を含め、最終的な意思決定機関は総会となります。
想定されるケース(マンションの特性)
・管理組合の運営面の改善が必要なマンションなどを想定
・計画的な大規模修繕の適切な実施、耐震改修・建替え等の耐震対策等専門的な知見が必要な場合を想定(※限定的な専門性を求められるケースも多くある)
論点・課題と標準管理規約における規定等の整備
・外部役員の選任・解任については、標準管理規約第35条第2項、第4項で以下のとおり規定されています。
第4項 組合員以外の者から理事又は監事を選任する場合の選任方法については細則で決める。
・役員の欠格要件については、標準管理規約第36条の2に規定され、該当する者は、役員となることができません。
二号 禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三号 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
・外部役員の業務執行のチェック体制の構築(理事会によるチェックの補完)として、以下の項目を標準管理規約に規定しています。(新設条文)
第38条第4項 理事長の職務執行の状況の理事会への定期報告義務
第52条第3項 理事による理事会の招集請求・招集
第41条第4項 監事の理事等に対する調査権
第40条第2項 組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実の理事から監事への報告義務
第41条第6・7項 監事による理事会の招集請求・招集
第41条第4項 監事の理事会への出席・意見陳述義務
第41条第5項 監事による理事会への理事の不正行為等の報告義務
コメント41条 監事による総会提出議案の調査・報告義務
・役員の取引の健全性の確保(利益相反取引の排除等)が重要であり、改正標準管理規約では以下のとおり規定しています。
第53条第3項 利害関係のある議決への当該理事の不参加
第38条第6項 監事等による管理組合の代表代行
・多額の金銭事故や財産毀損の防止、補償の担保と補償能力の充実を図るため、以下のような対応策を検討する必要があります。
役員は、管理組合の財産の毀損の防止及びそのために必要な措置を講じるように努めるものとする。特に、外部の専門家の就任に当たっては、判断・執行の誤りによる財産毀損に係る賠償責任保険への加入に努め、保険限度額の充実にも努めるべきである。さらに、故意・重過失による財産毀損は、保険の対象外のため、財産的基礎の充実による自社(者)補償や積立て等による団体補償の検討にも取り組むよう努めるべきである。
・派遣された役員が欠けた場合の補欠ルールの明確化
役員が任期途中で欠けた場合、総会の決議により新たな役員を選任することが可能であるが、外部の専門家の役員就任の可能性や災害時等緊急時の迅速な対応の必要性を踏まえると、規約において、あらかじめ補欠を定めておくことができる旨規定するなど、補欠の役員の選任方法について定めておくことが望ましい。
外部管理者理事会監督型
外部専門家を区分所有法上の管理者として選任し、理事会は監事的立場となり、外部管理者を監視するパターンです。つまり、この役員・理事会制度並存型は、すでに「区分所有法に定める管理者」となっている理事長以外に別途、外部の第三者を管理者として選任し、特定の職務遂行の任に当たらせるようなタイプです。変則的な方法です。この場合、監視する立場の理事会の役員に、さらに別の外部専門家を選任することもできます。ただし、外部管理者の選任を含め、最終的な意思決定機関は総会です。
想定されるケース(マンションの特性)
・高い専門性と透明性、区分所有者の利益の保護や最大化のニーズの高いマンションを想定(大規模な新築マンションなど)
※1.総会は意思決定機関として、管理者は知見豊富な執行者、理事会は監視機関となり、分担や責任の明確化が期待できます。
※2.専門性が高く、時間的な拘束が強く心理的な負担も大きい管理費回収訴訟、反社会的勢力、被災対応等の特定の問題を担当することも想定されます。
論点・課題
管理者の業務を第三者に委託するにあたり、第三者管理者の法律上の役割や責任関係を明らかにしておくことが必要です。(以下のような論点・課題をクリアーにしておく)
- 外部管理者=区分所有法上の管理者とする
- 外部管理者の選任・解任
- 外部管理者の欠格要件(外部・内部共通)
- 外部管理者のチェック体制(理事会によるチェックの補完)
- 外部管理者の取引の健全性の確保(利益相反取引の排除等(外部・内部共通)
- 多額の金銭事故、財産毀損の防止(外部・内部共通)
- 補償の担保と補償能力の充実(外部・内部共通)
- 専門家の属性
- 専門家の能力評価・育成方法
- 個人の専門家が管理者に就任する場合は、外部管理者の補欠ルールを明確化しておく(継続性の担保)
規約の整備等の考え方
管理組合の実際の運営は、管理規約の定めを根拠として行われます。したがって、第三者管理者方式を採用する場合は、以下のような点に留意し、規約変更をする必要があります。
外部管理者総会監督型
外部専門家を区分所有法上の管理者として選任し、理事会は設けないパターンです。つまり、規約の変更により、役員・理事会の制度を廃止し、これに代わって従前の理事会の機能を代替する外部の第三者を管理者に選任して、職務遂行の任に当たってもらうタイプです。
区分所有者からは監事を選任して監視するとともに、全区分所有者で構成する総会が監視するものであり、総会の役割がもっとも重要となります。さらに、監査法人等の外部監査を義務付けることも考えられます。
想定されるケース(マンションの特性)
・高い専門性と透明性、区分所有者の利益の保護や最大化のニーズが高いが、規模の小さいマンション
・理事長のなり手がいない例外的なケース(※支援的性格が強いケース)
論点・課題
管理者の業務を第三者に委託するにあたり、第三者管理者の法律上の役割や責任関係を明らかにしておくことが必要です。(以下のような論点・課題をクリアーにしておく)
- 理事長=区分所有法上の管理者とする規定の撤廃。理事長の業務・権限と管理者の業務・権限を整理する。
- 外部管理者の選任・解任を総会決議とする旨を規定する。
- 外部管理者及び役員の欠格要件として、銀行との取引停止、破産(者)等、資格・登録の取消し処分からの一定期間内等を規定する。
- 派遣元団体等による報告徴収や監査(適任者への交代を含む)又は外部監査(別の専門家の一時派遣等)の義務付けについて規定することも考えられる。
- 管理組合と外部管理者の利益が相反する取引の理事会への報告・承認。
- 管理者の誠実義務として、財産の毀損防止及びそのために必要な措置(保険加入、保険限度額の充実、財産的基礎の充実等)に努める旨を規定する。
- 一定期間の継続意思の確認について規定することも考えられる(新規参入を妨げないよう、意思の確認とする)
- 引継者を予め定めることができる旨を規定(欠けた時点での適任者の選任も可とする)
規約の整備等の考え方
第三者管理者方式を採用する場合は、以下のような点に留意し、規約変更をする必要があります。
第三者管理者方式のメリット・デメリット
役員・理事会制度型では、以下のメリット・デメリットが考えられます。
メリット
- 管理組合の運営上の責任関係が明確になる
- 専門的知識を有する者が、管理組合の運営を担うことで、マンション管理の質の向上が期待できる
- 区分所有者の管理組合の運営上の実働負担が軽減される
- 区分所有者が、マンション管理に対する意見を言いやすくなる
- 管理組合の運営の継続性が保たれる
デメリット
- 相応の委託費(業務報酬)の負担を伴う
- 管理組合の運営に対する区分所有者の関心が低下する恐れがある
- 管理者本位にマンションが管理される懸念がある
- 管理者による金銭事故等の発生が懸念される
- 第三者管理者方式に移行すると、役員・理事会制度型に戻すことが困難となる
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→5年ぶりに変わった「マンション標準管理規約」改正のポイント①~区分所有法、管理規約等の改正の経緯~
→理事長選任が困難なマンションで第三者管理方式を導入する際のポイント①
→理事長選任が困難なマンションで第三者管理方式を導入する際のポイント②
まとめ
「第三者管理者方式」は、区分所有者のみで行う従来の「役員・理事会方式」が、賃貸化や高齢化など役員のなり手不足などで、機能不全に陥らないためのセーフネット的な管理の実施方式として数年来、注目されてきました。
今回は、改正されたマンション標準管理規約および同コメントをもとに、改正のポイントをまとめました。第三者管理方式を導入する際の参考になれば幸いです。
北林真一
大学卒業後、一貫して不動産業界に従事してきました。
皆さまの大事なお住まい(マンション)のことは私にお任せください。
【得意分野】・合意形成の進め方 ・大規模修繕工事
【モットー】謙虚であれ、誠実であれ
【特技】日本酒と音楽(邦楽除く)は少しだけ詳しいです。
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